第二十一話・第三節:エリシアの覚醒
——これは俺たちの戦いだ。
暗闇の中で、カインと俺はぶつかり合った。
漆黒の大剣“夜喰らい”が唸りを上げ、カインの黒甲を裂く。だが、奴の身体はすぐに再生し、鋭利な爪で俺を薙いだ。
音速を超える爪撃を、ギリギリでかわす。
カインは、異形でありながら、異様なまでに”人間らしさ”を残していた。理性を失っているわけじゃない。むしろ、圧倒的な戦闘力を得たことで、より研ぎ澄まされた戦士になっている。
「……こんなものが”進化”であってたまるかよ」
俺は低く呟く。
アダムは、「進化した人間」と言った。
だが、これは”進化”なんかじゃない。
カインの姿は、どう見ても”人間の果て”じゃない。
いや——“人間の限界を超えた存在”なんかじゃない。
これは、“人間という枠を捨てた存在”だ。
それを、俺は”進化”とは呼ばねえ。
「……なら、俺が証明してやるよ」
——俺が”最強の死者”であることを。
俺は“夜喰らい”を振るい、カインの右腕を斬り飛ばした。
その瞬間——
「——っ!」
背後に殺気。
——黒曜の騎士たちが、一斉に俺を襲った。
黒曜の騎士——オリジン・コアが生み出した強化兵士。
全身を黒曜石のような鎧で覆い、無機質な仮面をつけた五体の騎士。
それぞれがカインと同等の力を持ち、完全なる戦闘兵器として俺に迫る。
カインに集中していた俺の隙を突かれた。
避けられない。
——その瞬間、眩い光が弾けた。
「……蒼真、下がって!」
——エリシアの声。
俺の視界が、白く染まった。
熱を帯びた神聖な光が、空間を満たしていく。
エリシアが俺の前に立っていた。
……違う。
“エリシアだったもの”が、そこにいた。
黒いコートは純白のドレスへと変わり、その背には燃え盛る白い翼が広がっていた。
その手には、光輝く槍——いや、《光の裁き》とも呼べるような武器が握られていた。
——エリシアが、“覚醒”した。
「……へえ」
俺は笑った。
「随分と派手にやるじゃねえか」
「あなたの死角は、私が守る」
エリシアは静かに告げた。
その瞬間——
エリシアの《光の槍》が、一閃した。
まるで雷光のように放たれた槍が、黒曜の騎士たちを一瞬で貫いた。
「——ッ」
黒曜の騎士たちが、消滅する。
それは、“ただの一撃”だった。
だが、それだけで——
五体の黒曜の騎士が、完全に塵と化した。
——これが、覚醒したエリシアの力。
「さて」
俺は、残された”戦友”を見た。
カインは、俺を見つめていた。
その表情は、もう”何かを語る”ものではなかった。
戦士として、最後まで戦い抜く——その意志だけが宿っていた。
「……あばよ、カイン」
俺は“夜喰らい”を振るった。
次の瞬間——
カインの身体は、完全に消滅した。
——俺は、“カインの進化”を喰らう。




