第二十一話・第一節:ダンジョンの正体
俺たちは、ついに辿り着いた。
ダンジョンの最奥。
目の前に広がるのは、異様な空間だった。
壁や床は金属と魔術が融合したような構造になっている。まるで研究施設の内部のような……いや、まさに”そういう場所”なのだろう。
奥の壇上に、一人の男がいた。
黒い軍服のような衣を纏い、銀の仮面をつけた長身の男——アダム。
「よくぞ来たな、“最強の死者”よ。そして——裏切り者」
最後の一言は、エリシアに向けられていた。
「……」
エリシアは無言で睨みつける。
俺は静かに剣を構えながら、アダムに言った。
「さっさと吐けよ……このダンジョンの正体を」
「ふむ。お前はどこまで理解している?」
「人類進化のための実験場——ってところか?」
俺の言葉に、アダムは満足げに微笑んだ。
「正解だ。“ダンジョン”は、我々オリジン・コアが開発した”人類自動進化装置”」
「……ふざけた話だな」
「聞け。これは人類の存亡をかけた戦いなのだ」
アダムはまるで神の言葉を語るような口調で続ける。
「本来、ダンジョンとは、異能者を生み出すための装置に過ぎなかった。挑む者は異能者として進化し、敗れた者はダンジョンに吸収され、モンスターへと変貌する……そのサイクルを繰り返すことで、より強い個体を生み出し続ける”選別の場”となるはずだった」
……なるほどな。
「ゾンビやカボチャ頭の連中も……そういうことか」
「そうだ。彼らは敗北し、“進化”した者たちだ」
「……それで、何でこんなものを作った?」
「それを聞くか?」
アダムが、わずかに目を細めた。
「元々、お前たちの“生まれた“研究施設はオリジン・コアが管理していた。だが、オルド・ノクスの襲撃によって乗っ取られ、我々の研究は滞った。我々は、人類を進化させるための”最適な敵”を求めた。ダンジョンに挑む者は進化し、挑戦者によってダンジョンもまた進化を遂げる。無論、その主たる私もだ。結果として、最深部に辿り着いた者は我々の求める”最適な敵”となっている、というわけだ」
「……それが、俺たちってわけか」
「その通り。“最強の死者”よ。我々はお前を歓迎する」
「……へえ」
俺は小さく笑った。
「だが、俺たちは歓迎するつもりはない」
「当然だ。だからこそ、お前を試す」
アダムが指を鳴らした。
次の瞬間——地面が裂けるような音と共に、“それ”が現れた。
全身が黒い甲殻で覆われ、獣のような牙を剥いた巨躯。
人の姿をしていながら、人ではない。
異形の化け物。
俺のよく知る男——
「……カイン」
エリシアが息を呑んだ。
「お前ら……こいつまで……ッ!」
「誤解するな。“こいつ”は望んで進化したのだよ」
アダムが冷ややかに言う。
「さあ、見せてもらおう。“進化の果て”を」
カインの瞳が、ぎらりと光った。
——最終決戦、開幕だ。




