第二十話・第二節:漆黒の大剣
「——来い」
俺がそう言った瞬間、空間が歪んだ。
祭壇の黒い触手が一斉に襲いかかる。
影が波のように押し寄せ、無数の怪物が形を成していく。
それらは人の姿をしているが、顔はなく、ただ口だけが裂けていた。
「“進化”とは、淘汰のことだ」
仮面の男がゆっくりと手を掲げると、怪物たちが咆哮を上げ、俺に向かって飛びかかってきた。
俺は闇の刃を構え、一閃する。
黒い閃光が奔り、前方の怪物たちを両断する。
「チッ、数が多いな」
倒したそばから、影がうごめき、新たな怪物が生まれる。
「蒼真——!」
エリシアが光の矢を放ち、背後から迫っていた影を撃ち抜く。
俺は軽く頷きながら、闇の刃を振るった。
しかし、何かが足りない。
俺の刃は、確かに強力だ。
だが、この無限に湧く怪物どもを捌くには、リーチが足りない。
(もっと、大きく……強く……)
そう思った瞬間——
『——応えよう』
脳内に、仮面の声が響いた。
次の瞬間、俺の右腕から黒い霧が噴き出す。
闇の刃がうねり、形を変えていく。
「な……!」
俺の手に握られたのは、漆黒の大剣だった。
全長二メートルを超えるほどの巨大な剣。
刃の表面には、脈動する暗黒の文様が刻まれている。
俺は試しに振るってみた。
「——はっ!」
黒い閃光が空間を切り裂く。
衝撃波が走り、敵の群れごとダンジョンの床を抉った。
圧倒的な力——!
「ふふ……見事だ」
仮面の男が満足そうに頷く。
「それこそが、お前に与えられた”進化の鍵”。
さあ、存分に振るうがいい。“淘汰”のために——」
俺は無言で大剣を構えた。
「……言われるまでもない」
刃が進化したなら、試すべきは一つ。
俺は、敵を”狩る”。




