第十九話・第三節:ひとときの安息
静寂が訪れた。
休息するために選んだ場所は、まるで異質な空間のようだった。
闇と瘴気が満ちたこの世界で、ここだけは妙に穏やかで静かだった。
エリシアは腰を下ろしたまま、軽く息をついた。
疲労は隠せないが、さっきよりも顔色は良くなっている。
「……少しは休めそうか?」
俺は壁に寄りかかりながら、彼女に声をかけた。
「ええ。やっぱり、あなたは疲れないのね」
エリシアは微苦笑を浮かべながら俺を見た。
「俺は”死者”だからな。生きていた頃みたいに、体の限界が来ることはない」
「……不思議なものね」
エリシアは、まるで珍しいものでも見るように俺を見つめた。
「眠ることも、食べることも、休むことも必要ない。——そんなの、本当に”生きてる”って言えるのかしら?」
「さあな」
俺は肩をすくめた。
「少なくとも、俺は今こうして”ここにいる”。それで十分だろ」
エリシアは少しだけ考え込むような表情を浮かべた。
「……それが、あなたの”生”なのね」
「そういうことだ」
俺は壁を軽く叩くと、エリシアの方を見た。
「お前こそ、もう少し休んでおけ。ここなら、しばらくは安全だ」
エリシアは少しだけ迷ったようだったが、やがて素直に頷いた。
「……分かったわ。でも、あなたはどうするの?」
「俺は見張りだ」
「頼もしいわね……」
エリシアは軽く目を閉じた。
俺は彼女を見つめながら、ふと考えた。
——こいつとは、奇妙な縁で繋がっている。
本来なら敵同士だったはずの存在。
だが、俺たちは今、こうして同じ道を歩いている。
その関係が、この先も続くのかは分からない。
——だが、今はそれでいい。
俺は静かに目を閉じ、周囲の気配を探った。
この安息が長くは続かないことを、俺は理解していた。
やがて、再び戦いの時が来る。
だが——その時が来るまでは。
「……休めるうちに、休んでおけよ」
俺は独り言のように呟いた。
エリシアは、何も言わず、静かに眠りについていた。




