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第十九話・第二節:エリシアの答え

「オリジン・コアの……実験体?」


 俺はエリシアの言葉を反芻した。


 それは、俺の過去とも深く関わる言葉だった。


 俺が蘇る前にいた場所。

 俺を殺した組織。

 そして——俺の記憶を奪った者たち。


 いや、記憶を改竄したのはオルド・ノクスの方だったか。

 俺の生前の記憶は今も夢の中の出来事のようだ。


 エリシアは壁にもたれたまま、俺を見つめていた。


「……驚かないの?」

「驚かないわけじゃないが……どこかで納得しているんだ。エリシアは他のレジスタンスのメンバーとは違っていた」

「あなたを信用したから?」

「いや、そういう意味じゃない。どう言えばいいのか……」


 エリシアは普通の人間じゃない。

 それは、彼女の異常な戦闘力や、俺と同じように常人離れした能力を見れば分かることだった。


「……私は、オリジン・コアが生み出した”特別な個体”だったの」


 エリシアは静かに語り始めた。


「オリジン・コアは”進化”を追い求めていた。人間を超える存在を生み出すために、何百、何千という実験を繰り返していたわ。そして……私も、その実験の産物」


「……つまり、お前は”作られた”存在なのか?」


「いいえ。私は”生まれた”わ。両親もいた……本当の両親かどうかは分からないけど。でも、オリジン・コアに連れ去られて、“道具”として育てられた」


 エリシアの表情は淡々としていた。


 まるで、自分の過去を語っているのではなく、他人の物語を話しているかのように。


「それが、お前の”選ばれた”理由か」

「そう。私は”光”の力を与えられた。おそらく、あなたとは対になる存在として……」


 エリシアは自嘲気味に笑った。


「あなたは”死者”。私は”光”。相反する力を持つ者同士——だからオリジン・コアは私に命じた」


 俺は黙って彼女を見つめた。


「……あなたを”抹殺する”ように。そして私はあなたに近づいた……」


 その言葉には、微塵の迷いもなかった。


「……どういうことだ?」


「オリジン・コアの研究者は、自分たちの生み出したあなたの力を恐れたの。あなたの力は強大で、彼らの手に負えなかったから。だから彼らはあなたを殺した。だけどその直後、研究施設はオルド・ノクスに乗っ取られた。オルド・ノクスはあなたを甦らせ、”死してなお歩む者”として復活させた。……オルド・ノクスはオリジン・コアを離反した者が立ち上げた組織。つまりオリジン・コアは、自分たちの生み出した、自分たちに制御できなかった強大な力を離反者に奪われた。だから、オリジン・コアは、あなたを”始末”するために私を送り込んだのよ」


 ——俺を始末するために。


 エリシアが、俺の”敵”として送り込まれた存在だったということを、今初めて知った。


「けど——お前は俺を殺していない」

「……そうね」


 エリシアは、ふっと微笑んだ。


「最初は、オリジン・コアの命令に従うつもりだった。でも、あなたを見て、分からなくなったの」

「何がだ?」

「……あなたは、本当に”世界の敵”なのかって」


 エリシアは、俺をまっすぐに見つめた。


「確かに、あなたはオルド・ノクスに蘇らされた存在。でも、あなた自身は何も知らずに、ただ戦い続けているだけ。……そんなあなたを、ただ”敵だから”という理由で殺すことが、本当に正しいことなのか」


「……」


 俺は黙って聞いていた。


 エリシアの言葉には、確かな迷いがあった。


「だから、私は”裏切った”のよ。オリジン・コアを捨てて、あなたと一緒に戦うことを選んだ」


 エリシアは静かに目を伏せた。


「あなたに言わなかったのは……タイミングを失ったのもあるけど、もしあなたが私を”敵”だと判断したら、もう隣にいる資格はないと思ったから」


「……何を言ってるんだ」


 思わず、言葉が漏れた。


「そんなことで、俺がお前を見限るとでも?」


 エリシアは驚いたように、俺を見つめた。


「……お前がどんな過去を持っていようと、俺はお前と戦ってきた。その事実が変わらない限り、俺の信頼は揺るがない」

「蒼真……」


「それに——お前は俺を殺せなかったんだろ?」


 俺は薄く笑った。


「それが答えだ」


 エリシアは、少しだけ唇を噛みしめると、ふっと力を抜いた。


「……そうね。もう悩むのはやめるわ」


 そして、どこか安心したように、微笑んだ。


「ありがとう、蒼真」


 その笑顔はどこか儚げで、俺はそんな彼女から目をそらすことができなかった。

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