第十八話・第五節:崩れる均衡
——黒と白の力がぶつかり合い、空間が軋む。
少女の”絶対の光”が降り注ぐたびに、俺の体を焼くような痛みが走る。
だが、その痛みすらも、俺をさらに深い闇へと導く燃料でしかなかった。
「あなたはどこまで堕ちるつもりなの?」
少女の問いに、俺は嗤う。
「堕ちる? 違うな」
闇の刃を振るうたびに、その形状がより鋭く、より巨大になっていく。
俺の全身を覆う黒い紋様が脈動し、仮面の意識がさらなる力を引き出していく。
「これは”堕ちる”んじゃない。“進化”だ」
俺は地を蹴り、少女に肉薄する。
「ッ!」
彼女は咄嗟に剣を構えるが——
遅い。
俺の闇の刃が少女の剣を弾き飛ばし、さらにその腹部へと鋭く突き立てる。
「ぐっ……!」
白い光が弾け、少女が後方へ吹き飛ばされる。
しかし、彼女はすぐに体勢を立て直し、宙で静止した。
「……やっぱり、強い……」
腹部から光が溢れ出し、傷が瞬く間に塞がっていく。
だが——その瞳の奥に、ほんのわずかに揺らぎが見えた。
「どうした? さっきまでの余裕は?」
俺は一歩、また一歩と彼女へ歩み寄る。
周囲の空気が俺の闇に侵食され、光すらも呑み込んでいく。
「……私は、あなたの力を見届けるためにここにいるの」
少女は剣を握り直し、再び構えた。
「なら、もっと強くなれ」
俺は笑う。
「次こそは、お前の”絶対の光”を粉々にしてやる」
そして、俺たちは再び激突する。
白と黒——
光と闇——
その境界が曖昧になるほどの、死闘が始まった。
白と黒の光が激突し、世界が悲鳴を上げる。
俺の闇が周囲の空間を侵食し、少女の光とせめぎ合う。
だが——すでに均衡は崩れつつあった。
「まだ……終わらせない……!」
少女の瞳が決意に燃え、最後の力を振り絞る。
白い剣が煌めき、無数の光の刃となって俺を包囲する。
「——“聖槍・千閃”!!」
彼女の叫びとともに、光の刃が一斉に俺へと降り注ぐ。
——しかし。
「遅い」
俺はゆっくりと右手を掲げる。
黒い霧が噴き出し、光の刃を呑み込んでいく。
触れた瞬間、すべての光が塵へと還る。
「なっ……!」
少女の表情に初めて焦りが浮かぶ。
「終わりだ」
俺は一気に距離を詰めると、闇の刃を振るう。
「——“闇穿”」
黒い閃光が走る。
少女の剣は砕け、その体が裂ける。
「ぁ……」
彼女は一瞬、自分の敗北を理解できないような顔をした。
だが次の瞬間、白い光の粒子が舞い、彼女の体は崩れ始めた。
「……そう、なの……」
少女はゆっくりと俺を見つめる。
「……やっぱり、あなたは……“最強の死者”……」
儚い微笑みを浮かべながら、彼女の体は光の塵となり、ダンジョンの壁に吸い込まれていった。
エリシアを縛っていた光の鎖が消える。
俺は闇の刃を収めながら、エリシアに駆け寄ると、倒れ込む彼女の華奢な体を抱き留めた。
「エリシア!」
「そ……ぅ……」
エリシアの消耗は激しく、その意識は朦朧としていた。俺はエリシアを抱き抱え、休息できそうな場所を探す。
生前の俺なら、エリシアに触れることに抵抗や戸惑い、或いは喜びを感じたかも知れない。だが、今は何も感じない。俺はすでに死んだ身だ。人間らしい感覚はすべて失った。
それでも俺はエリシアを置き去りにすることはできなかった。
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