第十八話・第三節:彼らの望んだ姿
カボチャ頭どもが一斉に俺へと襲いかかる。
だが、もはや彼らの動きは俺の目には遅すぎた。
「無駄だ」
俺は闇の刃を横薙ぎに振るう。
一閃。
衝撃波のような黒い光が走り、カボチャ頭たちの胴体がバラバラに裂ける。
だが、奴らは倒れない。
「……そう簡単には終わらせてくれないか」
斬り落としたはずの胴が、黒いモヤのようなものに包まれ、瞬時に再生していく。
頭を吹き飛ばしても、またどこからか新たなカボチャが生えてくる。
「なるほどな……」
俺は刃を構え直し、次の一手を考える。
このカボチャどもは、不死身に近い再生能力を持っている。
ただ切るだけでは埒が明かない。
「じゃあ……」
俺は闇の刃を強く握りしめた。
力を込めると、それはより禍々しく脈動し、俺の腕と一体化するように変質していく。
“喰らえ”
刃が黒い霧となり、敵の体に絡みついた。
すると——
ズルリ……
カボチャ頭たちの体が、俺の闇に飲み込まれていく。
「おおおおおお……」
カボチャどもが断末魔の悲鳴を上げながら、俺の力に取り込まれていく。
闇が彼らの生命力を削ぎ、消滅させる。
「へぇ……」
白い少女が俺の戦いを見つめながら、興味深そうに微笑んだ。
「そんなことまでできるのね。面白いわ。ずっと見てて良かった」
俺は奴を睨みつけた。
「次は、お前だ」
少女はクスリと笑う。
「……それは光栄ね。私もあなたと遊びたかったの」
プラチナブロンドの髪がゆるやかに流れ落ちる。
蒼白の翼が広がり、透き通るような尻尾がしなやかに揺れた。
まるで天使のようであり——悪魔のようでもある。
「でも、こんな格好では物足りないでしょ?」
彼女は、静かに手を前へとかざした。
次の瞬間——
世界が歪んだ。
——ガガガガガガッ!!
空間が悲鳴を上げるように震える。
「ッ……!?」
俺は思わず後退する。
ただの空間振動じゃない。
これは——力そのものが、変質する音だ。
「本当は内緒なんだけど、あなたには特別に見せてあげる。“私の真の姿”を」
——ズズズズズ……!!
彼女の背後に、白い光の輪が浮かび上がった。
それは、まるで天使の後光のようであり——いや、神の権能のようですらあった。
「これは……」
エリシアが息を呑む。
俺は言葉を発する間もなく、目の前の少女が変貌していくのを見ていた。
——白銀の角が、さらに輝きを増す。
——その身を覆う純白の衣が、淡い金の輝きを帯びる。
——そして、背中から伸びる蝙蝠のような翼が、無数の光の羽へと変わっていく。
「これが、“彼ら”が望んだ形」
少女が呟く。
その声は、もはや一つの存在のものではなかった。
無数の声が、彼女の口から語る。
「オリジン・コアが望んだ、究極の進化形」
俺は仮面の奥で、眉をひそめた。
「……つまり、お前は”オリジン・コア”そのものってことか?」
少女は、クスリと笑った。
「ううん、それは違うよ、蒼真」
彼女は手を掲げる。
「私は、ただの”結果”」
そして——
「“あなたと同じもの”よ」
次の瞬間——
世界が爆ぜた。
白い光が俺を包む。
(……これは)
——天使のようであり、悪魔のような……
——世界そのものを塗り替える光。
「さあ、“選択”を始めましょう」
彼女の言葉と同時に、俺の全身が焼かれるような感覚に襲われた——。