第十八話・第二節:白い少女の戯れ
足元に広がる影が、不気味に蠢いていた。
カボチャ頭の従者どもが次々と這い出し、黒い紋様の刻まれた異形の仮面が不気味に歪む。
「ふふ……やっぱり強いのね。でも、どこまでいけるかしら」
白い少女がくるりと舞いながら、指を鳴らす。
瞬間——
カボチャ頭たちの胴体が膨張し、頭が弾け飛んだ。
飛んだカボチャが、俺に向かって殺到する。
「っ……!」
即座に闇の刃を振るう。
だが、飛来するカボチャはまるで意思を持つように軌道を変え、再び俺を狙ってくる。
「あははっ! すごいでしょ?」
少女が楽しげに笑う。
「私の可愛いカボチャ頭は頭部が爆発するの。しかも、ちょっとした魔法も込めてあるんだから。いっぱい楽しんでね、最強の死者さん」
俺の動きを見透かしたかのように、カボチャが四方から迫る。
それらが触れる寸前——
「……消えろ」
闇の刃が螺旋状に広がり、周囲を一閃する。
飛来するカボチャを一瞬で切り裂いた。
「もうッ! 雑なことをしないで。せっかく作ったんだから、もっとちゃんと遊びなさいよ」
少女が不満げな顔をする。
爆発の余波を受ける前に、俺は闇の力を解放し、その場から跳躍した。
一瞬で間合いを詰め、少女へ向けて闇の刃を振るう——
——が、刃は虚空を裂くだけだった。
「ふふっ、やっぱり速いのね」
少女は背後に瞬間移動していた。
俺が振り向くより早く、彼女は手をかざし——
「白焔」
白い炎が俺を包み込んだ。
——だが、その程度の熱では俺を止められない。
闇の力を集中させ、一気に炎をかき消す。
少女が目を見開く。
「わぁ……本当にすごい。こんなことまでできるのね」
「……遊びは終わりだ」
俺は闇の仮面に手を触れた。
瞬間——
世界が歪んだ。
——俺の力が、また一段階高まるのを感じた。
「ふふっ……いいよ、その調子」
少女が満足そうに微笑む。
「ねぇ、最強の死者さん。もっと、もっと見せて……」
俺の体を包む闇が、これまでとは違う形を成し始める。
黒い仮面が脈動し、視界が鮮明になった。
敵の動きが、まるでスローモーションのように見える。
「へぇ……」
白い少女が興味深そうに俺を見つめていた。
「やっぱり、あなたは特別ね」
俺は言葉を返さず、地を蹴った。
一瞬で彼女の懐に入り、闇の刃を振るう——だが、またも空を切る。
「ふふっ、惜しい」
少女はふわりと舞い上がり、俺の刃の軌道を避ける。
だが——
「もう逃げられないぞ」
俺はすでに次の一手を繰り出していた。
影が少女の足元から這い上がり、その体を絡め取る。
「こういうのは好きじゃないわ」
少女が指を鳴らすと、白い光が迸り、影の拘束を焼き払った。
その瞬間、俺は少女の背後に回り込んでいた。
「——しまっ」
刃が、少女の肩を斬り裂く。
白いドレスに血のような赤が滲んだ。
「わぁ……やられちゃった」
少女は驚いたように肩を押さえ、それから——楽しげに笑った。
「やっぱり、あなたはとっても面白いのね」
少女の足元から光が立ち昇る。
気がつけば、彼女の周囲には無数のカボチャ頭たちが並んでいた。
「でもね、これはあなたのための舞台じゃないの」
少女が手を掲げると、カボチャ頭たちが一斉に俺に飛びかかってきた。
「試してみたいわ。あなたがどこまで強くなれるのか」
俺は無言のまま、闇の刃を振りかざした——。




