第十八話・第一節:完全なる力を得るには
白い少女がゆっくりと歩み寄ってくる。
「……お前は、俺のことを知っているのか?」
「もちろん! だってあなたは”彼ら”が生み出した最高傑作だもの」
少女はくすくすと笑う。
“彼ら”——オルド・ノクスか。それともオリジン・コアか。
蒼白い指が宙をなぞる。
「ねえ、“最強の死者”さん。あなたはどうしたいの?」
「どうしたい、だと?」
「うん。あなたはこのまま”最強”のままでいたい? それとも……“完全な存在”になりたい?」
少女の目が、俺の仮面を見つめる。
その瞬間——仮面が脈動した。
「……ッ!」
視界が揺れる。
——これは……“仮面の意思”か?
『選べ』
脳内に響く声。
『完全なる力を求めるのなら、全てを手放せ』
全てを……手放せ……?
「……蒼真?」
エリシアの声が聞こえる。
気がつくと、少女は俺の目の前に立っていた。
「あなたが進むなら、私は立ちはだかるわ」
少女は微笑み、両手を広げる。
「さあ、戦いましょう。最強の死者さん」
空気が張り詰める。
俺は……この戦いを、避けるつもりはない。
「——望むところだ」
俺は闇の刃を解放し、白い少女と対峙する。
少女のプラチナブロンドの髪が揺れる。
その純白の尻尾が弧を描いたかと思うと、次の瞬間——少女の姿が消えた。
速い——!
俺は即座に闇の刃を振るった。
刃は空を裂き、見えない何かにぶつかる感触があった。
「ふふっ」
笑い声が聞こえた直後、背後から強烈な衝撃。
身体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「……チッ!」
素早く態勢を立て直すと、少女が宙に浮かびながらこちらを見下ろしていた。
白い蝙蝠の翼がゆっくりと羽ばたいている。
「やるわね。さすが”最強の死者”さん」
「戯言はいい。さっさとかかってこい」
俺は闇の刃を構える。
しかし少女は、余裕の表情で微笑むだけだった。
「じゃあ……これでどう?」
少女が指を鳴らすと——空間が歪んだ。
何かが蠢く。
足元に広がる影。
そこから、無数の”カボチャ頭”が這い出してきた。
「またか……!」
だが、前に戦ったカボチャ頭とは異なる。
こいつらの全身は白く、頭部のカボチャには黒い紋様が刻まれている。
「彼らは《ジャックの従者》……少しだけ、強いよ?」
少女の言葉が終わる前に、カボチャ頭たちが一斉に飛びかかってきた。
——だが、遅い。
俺は闇の刃を振るい、瞬く間に数体を両断する。
「蒼真……!」
エリシアの声が聞こえた瞬間、少女が彼女に向かって手をかざした。
「おっと、そこまでよ?」
白い光が炸裂し、エリシアの動きが止まる。
「ッ……!」
エリシアの身体を包む白い鎖。
「あなたには、少しお休みしてもらうわ」
少女はくすくすと笑う。
俺は舌打ちし、カボチャ頭をなぎ倒しながら少女を睨みつけた。
「おい、お前……」
「ん? どうかした?」
「——ふざけるな」
俺はさらに闇の力を解放する。
この戦い……遊びじゃない。
「いい加減、ぶっ潰すぞ」