第十七話・第三節:白の試練
暗闇の向こうに白い人影が見える。
朧げな人影は、近づくに従って見覚えのある少女の形に変わる。
「カボチャ頭と遊ぶの、楽しかった?」
少女は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
彼女の姿は、どこか現実離れしていた。
純白のドレスのような衣装。
背に生えた白い蝙蝠の翼。
透き通る尻尾と、クリスタルのような角。
光と闇、そのどちらともつかない存在。
「……今度は何の用だ」
俺が問いかけると、少女は楽しそうに微笑んだ。
「あなたの戦いぶりを見ていたわ」
「ストーカーはお呼びじゃない」
「私はそういうのじゃないわ。ずっと、ずっと前から。あなたが蘇ったときから、あなたがどこへ向かうのか、ずっと興味があったの。だからあなたを見ていたの」
ストーカーじゃないなら何なんだ。
俺が突っ込みあぐねていると、エリシアが一歩、前に出た。
エリシアは少女に問う。
「あなたもオリジン・コアの実験体なの?」
「失敗作なんかと一緒にしないで」
「……蒼真に何の用?」
エリシアの言葉に少女は肩をすくめる。
「そんなに警戒しなくてもいいのに。私はただ、“確認”しにきただけ」
「何をだ?」
俺の問いに、少女は微笑みながら答えた。
「あなたが、世界を壊すに相応しいかどうか」
その瞬間、空気が張り詰めた。
エリシアが魔力を込め、俺は無意識のうちに闇の刃を生やしていた。
しかし、少女はまるで気にする様子もなく、静かに言葉を紡ぐ。
「今のあなたは、まだ”不完全”。仮面の力を得て、闇の力を増したとはいえ、それだけでは”完全体”にはならない」
「……”完全体”?」
「そう。オリジン・コアの恐れたもの。オルド・ノクスの求めたもの。……もしかしてあなたは知らないの?」
少女は楽しそうに首を傾げる。
心臓が高鳴る。
この感覚は——いや、仮面の意思が、俺の中で何かを囁いている。
少女が手を伸ばす。
「完全体になれるかどうか、試してみる?」
その瞬間——
轟音とともに、巨大な影が天井から降ってきた。
ダンジョンの構造を揺るがすほどの衝撃。
落ちてきたのは——
「……これは、また厄介そうな奴だな」
俺の目の前に立ちはだかるのは、巨大な獣のような異形。
黒曜石の鎧をまとい、黄金の眼を爛々と輝かせている。
「……ああ、これは”試練”よ」
少女が楽しげに言う。
「さあ、あなたの力を見せて……」
俺は無言で闇の刃を構えた——。




