第十六話・第四節:進化の鍵
肉片が蠢く。
地に落ちたはずの獣の体が、まるで意思を持つかのように動き出し、再び結合していく。
「……まだ再生するのか」
俺は舌打ちしながら構え直す。
しかし、今までとは違う。
ただ元の姿に戻るのではなく、さらなる異形へと変貌しようとしていた。
「蒼真、まずいわ」
エリシアが警告を発する。
光の力を込めた魔法陣を展開し、変異する肉片を焼こうとするが——
「っ……無効化された!?」
彼女の放った光弾が、獣の変質する肉に吸収されていく。
その瞬間、俺は理解した。
「……こいつ、適応してるのか」
俺たちの攻撃を受けるたびに、弱点を克服し、さらなる進化を遂げる。
「なら、完全に消し飛ばすしかないな」
俺は闇の刃を握り直し、さらに闇の力を解放する。
「……やりすぎると、あなたが戻れなくなるわよ」
エリシアの言葉が聞こえたが、俺は無視した。
この仮面がある限り、俺は負けない。
そして、俺はもう迷わない。
「——潰す」
俺の手の中で、闇の刃がさらに変質する。
今まで以上に濃密な闇が凝縮され、形を成す。
すると——
『……よい、今の貴様ならば、それを扱えるだろう』
仮面の意思が、俺の内に囁く。
——次の瞬間。
俺の手の中に生まれたのは、黒き剣だった。
「っ……こいつは……」
見覚えのある形状。
まるで、この仮面と同じく、遥か昔から存在していたかのような——
『これは“起源の武器”の一つ……かつて、人類を進化へ導くために生み出された“鍵”』
仮面の意思が語る。
『貴様の力は、それを振るうに値する段階へと到達した』
進化の鍵。
人類の限界を超えるために作られた、選ばれた者だけが扱える武器——
「……それなら、試してやるよ」
俺は黒き剣を振り上げ、全力で振り下ろした。
——闇が奔る。
刃が触れた瞬間、獣の肉体が弾けるように砕け、消滅していく。
再生する間もなく、存在そのものが削り取られていくのがわかった。
「——終わりだ」
俺の一撃を受け、獣は最後の悲鳴を上げる間もなく、完全に消え去った。
そして——
『……よい、これでまた一歩、進化に近づいた』
仮面が満足げに囁く。
「蒼真……」
エリシアが俺を見つめている。
その瞳には、安堵と、それ以上の別の感情が混ざっていた。
——俺が、変わり始めていることを、彼女は気づいているのだろうか。
だが、俺は後戻りはしない。
進むだけだ。
この力を——進化の鍵を使いこなすために。




