第十六話・第三節:変異する獣
進化した《飢えた獣》は、もはや元の姿とは別物だった。
全身を黒い鱗のような外殻で覆われ、異形の四肢はさらに肥大化している。牙はより鋭く、両腕には巨大な鉤爪が形成されていた。だが、最も異質だったのは——
「……目か」
獣の頭部に並ぶ無数の赤い眼球。
それら全てが俺を見据え、まるで俺の思考を読んでいるかのような感覚を覚えた。
「ふざけた真似を……」
俺は舌打ちし、闇の刃を構える。
獣が咆哮を上げた瞬間、その姿が消えた。
「——ッ!」
速い。だが、見える。
仮面を得てから、俺の視界は強化されていた。
相手の動きを、予兆を、全てが手に取るようにわかる。
獣の爪が俺の首を狙う。
俺は僅かに身を捻り、刃を振るった。
ズバァッ!!
獣の片腕が宙を舞い、地面に落ちる。
「なるほどな……進化したからといって、斬れないわけじゃない」
俺は冷笑しながら言い放つ。だが、獣は怯まなかった。
即座に跳び退り、自らの腕を見下ろす。
すると——その断面が脈動し、瞬く間に新たな腕が生え変わった。
「……再生速度まで強化されたか」
ならば、速さで上回るしかない。
俺はさらに闇の力を解放し、一瞬で間合いを詰める。
「——遅い」
黒い稲妻のような斬撃が閃き、獣の胴を袈裟斬りに断つ。
続けて、逆方向からの二撃目。
「無駄な抵抗だ」
獣の体が崩れ落ちる。
……しかし、その時。
「——っ!?」
背後に殺気。
振り向く間もなく、獣の尾が迫る。
「蒼真!」
エリシアの声が響く。
次の瞬間、光の奔流が俺の横を通過し、獣の尾を弾いた。
「……助かった」
俺は軽く息を吐き、エリシアを一瞥する。
「礼は後でいいわ。まだ終わってない」
彼女の言う通りだ。
獣はまだ完全に死んでいない。
その肉片がまた動き出し、さらなる変異を遂げようとしている。
「……しつこいな」
だが、俺の中にも確信があった。
これを倒せば、一つの真実に辿り着く。
仮面の意思が、俺にそう告げていた。




