表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/98

第十六話・第一節:人間だったもの

 戦いの余韻が消えぬまま、俺たちはダンジョンの奥へと進んでいた。

 足元にはカボチャ頭どもの残骸が転がっている。あれほどの数を相手にしたというのに、今の俺には疲労すら感じられない。むしろ、闇の刃が体の一部として馴染み、さらに鋭さを増しているのを実感していた。


 ……いや、それだけじゃない。


 視界が鮮明すぎるほどに冴えている。壁の罅割れ、天井にこびりついた血痕、遠くで滴る水音すら、まるで自分の一部のように感じる。

 仮面をつけてから、確実に俺の力は進化している。だが同時に——


「……蒼真、大丈夫?」


 横に並んで歩くエリシアが、俺の顔を覗き込んでいた。心配そうな瞳が俺を映している。


「ああ、問題ない」

「でも……」

「……心配なら、離れたほうがいい」


 俺は仮面の表面に指を這わせた。こいつは間違いなく、俺を変えている。完全に支配される前に、どこまでなら耐えられるのか……その境界線を見極めなければならない。


 エリシアは俺の言葉に少し驚いたようだったが、すぐに静かに首を振った。


「私は……最期まであなたのそばにいるわ」


 その言葉に、何かが胸の奥で軋むような感覚がした。しかし、それが何なのかを考える余裕はなかった。


 ——前方から、何かが迫ってくる。


「……来るぞ」


 俺は闇の刃を展開し、身構えた。


 ダンジョンの奥から響く、不気味な蠢動。地面が揺れ、壁がざわめく。

 そして、闇を切り裂くように飛び出してきたのは——


 飢えた獣だった。


 巨大な四肢、鋭く伸びた爪。人間の顔をした異形の怪物。

 だが、こいつはただのモンスターではない。


「オリジン・コアの実験体……!」


 エリシアが小さく息を呑む。


 ……なるほど、確かにこれは人間だったものの成れの果てだ。

 歪んだ体躯。血走った瞳。生きるために何かを喰らい続けなければならないという、異常な執念を感じる。


 だが、そんな怪物が何体来ようと——


「……邪魔だ」


 俺は足を踏み出し、闇の刃を振るった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ