第十四話・第四節:化け物とは
再び銃声が響いた。
俺のすぐ横を弾丸がかすめ、地面に穴を穿つ。振り返ると、レジスタンスの連中が俺に向けて銃を構えていた。
「撃て! こいつは化け物だ!」
「待て、やめろ!」
カインの声が聞こえた。しかし、彼は膝をつき、肩を押さえてうずくまっている。怪我のせいで立ち上がることすらままならないようだった。
奴らが再び引き金を引くのを、俺は視線だけで追った。
(チッ……この状況で俺まで敵視するのか)
銃口が火を噴いた。
だが、弾丸が俺に届くことはなかった。
次の瞬間、俺の身体は反射的に動いていた。足を踏み出し、闇の力を纏った腕を振るう。疾風のような速さで横へ跳び、銃弾を避けながら、迫るクローンの一体を闇の刃で貫いた。
クローンは抵抗する間もなく崩れ落ちる。
レジスタンスの連中は、それでも攻撃の手を緩めなかった。
「化け物が! さっさとくたばれ!」
俺がクローンどもを倒しているのを見ても、こいつらには関係ないらしい。今の俺は、ただ“化け物”という括りの中に放り込まれた敵でしかないのだろう。
そんな考えが脳裏をよぎったその瞬間——。
閃光が弾けた。
純白の光が一瞬で視界を覆い、レジスタンスの連中が目をくらませて呻き声を上げる。
「ぐっ……!」
「何だ……!? 眩しい……!」
光の中心には、エリシアが立っていた。
彼女は俺の側へと歩み寄りながら、鋭い視線でレジスタンスを見据える。
「やめなさい、あなたたち……!」
その声はいつになく冷たかった。
しかし、光が収まった瞬間——。
「こいつ……化け物を庇うのか!」
「化け物の味方は人類の敵だ!」
「撃て!」
一人が叫び、レジスタンスの銃口がエリシアに向けられた。
俺は反射的に動こうとした。
だが——それよりも速く、俺の中で何かが蠢いた。
不意に、ポケットの中で黒い仮面が震えた。
(……!?)
仮面が脈動し、意思を持つかのように俺の顔へと迫る。
抗う間もなく、それは俺の肌に張り付き、黒い光を放った。
次の瞬間——。
俺の意識が、闇に引きずり込まれた。