第十四話・第二節:クローンの襲来
湿った空気が鼻を突く。
崩れかけた建物を抜け、俺たちはダンジョンの奥へと進んでいた。
レジスタンスの連中は無言だった。さっきの戦いの後、俺に対する視線は明らかに変わった。疑念と警戒。いや、それだけじゃない——あれは恐怖だ。
エリシアが俺の隣を歩いていた。彼女だけは、相変わらず俺をまっすぐに見てくる。
「……何か考え込んでる?」
「いや、何も」
短く返す。
だが、エリシアはそれ以上何も言わなかった。ただ、俺の歩調に合わせるように静かに並んでいる。
そのときだった。
「——来る!」
鋭い気配が空間を裂いた。
俺は咄嗟に闇の刃を展開し、後方のレジスタンスを庇うように前に出た。
次の瞬間——
「ようやく会えたな、“オリジナル”」
目の前に立っていたのは、俺と同じ顔を持つ存在だった。
「……チッ」
気に食わないほど整った顔立ち。無機質な瞳。まるで感情のない人形のような姿。
そして、そいつの後ろには、同じ顔をした男たちが数人、並んでいる。
「何人もいやがるな」
「当然だ。僕たちは”監視者”……オルド・ノクスが生み出した、お前のクローンだ」
俺のクローン。
オルド・ノクスが——俺を”世界の敵”として仕立て上げるために作った、使い捨ての駒。
「……お前たち、何しに来た?」
俺が問うと、クローンの一人が淡々と言い放った。
「レジスタンスの排除。それが僕たちの役目だ」
直後、監視者たちが一斉に動いた。
「——ッ!」
高速の踏み込み。異様な速さでレジスタンスの面々に迫る。
「やらせるかよ!」
俺は闇の刃を振るい、奴らの進路を塞ぐ。
金属がぶつかるような音が響く。俺の刃を受け止めたのは、監視者の一人——そいつの腕から生えた、俺と同じ”闇の刃”だった。
「……なるほど。俺の力をコピーしたか」
「当然だ。僕たちは、お前を超えるために作られた」
監視者が冷たく告げる。
「試してみるか?」
俺は薄く笑い、刃を振り上げた。
「“オリジナル”が、どれほどのものかを——」
次の瞬間、俺と監視者たちの戦いが始まった。




