第十四話・第一節:レジスタンスの怯え
地面を蹴り、闇の刃を振るう。
俺の腕から生えた黒い刃が、眼前のゾンビの胴を一瞬で両断した。腐臭を放つ肉塊が地面に転がり、なおも蠢こうとするのを、容赦なく踏み潰す。
「……次」
俺はすぐに次の標的へと向かう。
ダンジョンの通路の奥に、異形のゾンビたちがひしめいていた。体の一部が機械化したもの、異様に膨れ上がったもの、骨が露出したもの——それらが呻きながら、俺たちに向かってきていた。
だが、こいつらを恐れる必要はない。
「邪魔だ」
俺の闇の刃が軌跡を描く。ゾンビの群れが次々と弾け、血煙を撒き散らしながら崩れ落ちる。
俺の後ろでは、レジスタンスの連中が固唾をのんでこの光景を見ていた。
「……なんだ、あの動き……」
「人間じゃねえ……」
「完全に怪物じゃねえか……」
聞こえている。
だが、気にする必要はない。
俺の目的はダンジョンの踏破、最深部に至ること。レジスタンスの英雄として持て囃されることじゃない。
「……!」
新たな敵が迫る。異様に長い手足を持つゾンビが、鋭利な爪を振りかざしながら跳躍してきた。
迎え撃つ。
瞬時に身を沈め、地を蹴る。
「ハァッ!」
闇の刃が閃く。ゾンビの腕ごと、その体を両断した。
「す、すげぇ……」
「いや、すげぇじゃねえ……なんなんだよ、あいつ……」
レジスタンスの連中の声が、さらに怯えを帯びる。
俺が力を振るうたびに、彼らの視線は恐怖に染まっていく。
俺だって好き好んでこんな力を得たわけじゃない。異様なものを見るような目を向けられて、何も思わないと言えば嘘になる。
だが、そんなことを気にしている暇はない。
俺は俺の戦いをするだけだ。
「——っ!」
最後のゾンビを仕留めると、あたりは静寂に包まれた。
俺は息を整え、後ろを振り返る。
そこにいたのは、俺を見つめるレジスタンスのメンバーたちだった。
「……」
誰も、口を開かない。
だが、言葉にしなくてもわかる。
彼らの目には、俺が怪物としか映っていないことを。




