第十二話・第四節:友好的な敵
俺の背後でレジスタンスがゾンビの群れと戦っている。振り向く必要がないことは音だけで把握できる。それに今は目の前のカボチャ頭から目を離せない。
カボチャ頭の怪物が動いた瞬間、俺も本能的に駆け出していた。
「ハッ!」
闇の刃を振り下ろす。しかし、カボチャの怪物はまるで風のようにスッと後退し、刃が空を切る。
「……ッ、速いな」
その異様な動きに驚く間もなく、怪物の影が蠢いた。
ズズズ……!
黒い靄のようなものが地面を這い、俺の足元を絡め取ろうと伸びてくる。
「そんなもんで——」
俺は跳躍し、影を避けながら怪物の懐に飛び込む。
「止められると思うなよッ!」
刃の生える向きを逆手に切り替え、カボチャ頭に斬り込む。
——が、その瞬間、カボチャの怪物の身体が霧のように歪んだ。
「……ッ!? すり抜けた……?」
刃は確かに命中したはずだった。だが、まるで手応えがない。
そして、俺の背後から声が聞こえた。
「——やるね。でも、まだまだ」
振り向くより早く、強烈な衝撃が背中を襲う。
ドガッ!!
「ぐっ……!」
俺は廃墟の壁に叩きつけられた。
全身に鈍い痛みが走るが、それ以上に違和感を覚えた。
——今の攻撃、何だった?
カボチャの怪物が俺の背後に回り込んだのは分かった。でも、あの一撃には”直接的な力”が感じられなかった。まるで——“存在そのもの”が押し付けられたような。
「……こいつ、普通のアンデッドとは違うな」
「まるであなたのことを以前から知っているみたい。生前の記憶を有しているのかしら……」
エリシアが横に並び、警戒するように言う。
「俺にはカボチャ頭の知り合いなんていないぞ」
俺は軽口を叩きながら、再び構えた。
カボチャの怪物は、それを見て満足そうに笑う。
「いいね、その目。試しがいがある」
次の瞬間、奴の影が大きく膨れ上がった。
「——じゃあ、もっと本気で試してあげる」
その声とともに、戦いはさらに激化する。