第十二話・第三節:異質なるかぼちゃ
闇の中で、カボチャ頭の怪物が嗤った。
「——やっと、会えた」
その声は、まるで懐かしい友人に語りかけるように穏やかで、しかしどこか不気味だった。
「……俺を知っているのか?」
俺は闇の刃を構えながら問いかける。しかし、カボチャの怪物は答えず、ただ楽しげに首を傾げた。
エリシアが小さく息を呑む。
「……今までの雑魚とは違うみたいね……」
「ああ。見れば分かるさ。だが、“どう違う”と思った?」
エリシアは視線を鋭くしながら、慎重に分析を始める。
「まず、動きがないわ。これまでの敵は、私たちを見つけたらすぐに襲いかかってきた。でも、このカボチャ頭はじっとこちらを観察している……まるで”待っている”みたいに」
「待っている……?」
その言葉を反芻する間も、カボチャ頭の怪物は微動だにしない。ただ、燐光のようなオレンジ色の目を輝かせながら、俺をじっと見つめていた。
不意に、胸の奥がざわつく。
——この怪物、何かがおかしい。
“敵”というより、“対話を求めている”ような気さえする。
しかし——
「蒼真! 避けて!」
エリシアの叫びと同時に、俺の足元から黒い触手のようなものが伸びてきた。
咄嗟に跳び退る。
次の瞬間——
ズシャァッ!!
俺がいた場所を、鋭い闇の槍が貫いていた。
……やはり、ただの観察者ってわけじゃなかったか。
「やる気がないわけじゃない、ってことか」
俺は闇の刃を呼び出し、構え直した。
その時——
カボチャ頭の怪物が、ゆっくりと片手を持ち上げた。
「さて、どうする?」
その声は、まるで”試す”ようだった。
俺はその挑発に、ニヤリと笑って応えた。
「……面白ぇ。なら、試してみろよ」
次の瞬間、カボチャ頭の怪物が動いた。
戦いが始まる。




