第十二話・第一節:失われた記憶
——光が弾けた。
眩しさに目を閉じる。
意識が浮遊する感覚。足元がない。まるで自分が世界から切り離されたようだった。
これは……夢か?
それとも、何かが俺の記憶を覗いているのか——
次の瞬間、映像が流れ込んできた。
”……起きて、蒼真”
遠い声。どこか懐かしい響き。
目の前に広がるのは、見覚えのある研究施設の光景だった。
冷たい金属の床。無機質な白い壁。
そして——
白衣の研究者たち。
俺の身体は、実験台に横たえられている。拘束具が腕と足を固定し、動けない。
“……被験体107、覚醒を確認”
“再生は成功か?”
“いいや、まだ完全ではない”
彼らは俺を見下ろしている。
……俺は、ここで死んだはずじゃなかったのか?
そう思って不意に自分の記憶の矛盾に気づく。
俺は交通事故で死んだはずだ。俺には事故の瞬間の記憶があったはず。しかし今、その記憶は夢の中の出来事のように朧げになっている。入れ替わるように鮮明になったのは、研究所での死の記憶。白衣の男たちが俺を殺し、そして蘇生を確認している。
いや、それ以前に——
俺は、何のためにこの施設にいた?
なぜ、研究者たちは俺を「被験体」と呼ぶ?
理解できない。
交通事故の記憶が再び鮮明になる。事故に遭う直前にスマホに表示された番号を俺ははっきりと思い出す。107107107107……被検体107。
頭が痛む。記憶が、霧に包まれる。
“……すぐに戻るわ”
ふと、別の声が聞こえた。
俺はそちらに目を向ける。
——そこにいたのは、一人の少女だった。
白い髪、紅い瞳——エリシア。
……どういうことだ?
エリシアが、研究施設に?
だが、今の彼女とは雰囲気が違う。
どこか冷たく、感情のない表情。
彼女は俺を見下ろし、小さく呟いた。
“あなたはまだ……”
言葉の続きを聞く前に——
視界が、闇に呑まれた。
——気がつくと、俺は元の場所に立っていた。
「……っ!」
息を呑む。心臓が早鐘のように鳴っている。
「蒼真! 大丈夫!?」
エリシアが駆け寄ってくる。
俺は無意識に彼女の顔を凝視した。
先ほどの幻影に出てきたエリシアと、今目の前にいるエリシア。
同じ姿、同じ声——だが、何かが違う。
「……お前、本当にエリシアか?」
「え?」
思わず言葉が漏れた。
エリシアは困惑した表情を浮かべる。
俺は無理に笑みを作った。
「……いや、なんでもない」
今は、まだ確かめる時じゃない。
だが確信した。
エリシアは、何かを隠している——
俺が知らなかった”真実”を。




