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第十一話・第四節:囁く声

 静寂が支配する偽りの街。


 俺たちは慎重に足を踏み入れた。


「……本当に、誰もいないの?」


 エリシアが警戒しながら周囲を見渡す。


 どこを見ても、建物はそのままの形を保っている。


 しかし、人の気配は皆無だった。


「おかしいな……まるで時間が止まってるみてえだ」


 カインが唸る。


 俺は何かを思い出そうと記憶を辿った。


 ——この街は、間違いなく俺が生前に暮らしていた場所だ。


 家並みも、道も、電灯の配置さえも、一つとして違わない。


 だが、それなのに何かが……決定的に異なっている。


 “おかえりなさい”


 ——声がした。


「!」


 俺は反射的に振り向く。


 だが、そこには誰もいなかった。


「どうした?」


 カインが怪訝そうに俺を見る。


「いや……今、何か聞こえなかったか?」

「聞こえないわ」


 エリシアが首を振る。


「……気のせいか?」


 ——そんなはずがない。


 俺は確かに聞いた。


 “おかえりなさい”


 それは、遠い記憶の奥底から響いてきたかのような……懐かしく、それでいて不気味な声だった。


 “おかえりなさい、蒼真”


 再び声がする。


 俺の名を呼んでいる。


 誰だ?


「……待て」


 俺は足を止めた。


 風が吹き抜ける。


 それと同時に——


 世界が、揺らいだ。


「くっ……!」


 目の前の建物が歪む。


 まるで水面に映った影のように、現実が崩れ始める。


「気をつけろ、何か来るぞ……!」


 俺は闇の刃を展開し、戦闘態勢を取った。


 カインとエリシアも武器を構える。


 次の瞬間——影が、現れた。


 それは、人の形をしていた。


 だが、その顔は真っ黒な闇に覆われ、表情がない。


「……誰?」


 エリシアが警戒の声を上げる。


 影は何も答えなかった。


 ただ、じっと俺を見つめている。


 いや、“見つめている”のかどうかも分からない。


 だが、俺は直感的に理解した。


 こいつは、俺を知っている。


 そして——


 こいつは、俺の記憶を覗いている。


「……何者だ?」


 俺が問いかけると、影はゆっくりと手を伸ばしてきた。


 その指先が俺に触れる瞬間——


 ——視界が、白に染まった。

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