第十一話・第三節:歪んだダンジョン
影の怪物を倒し、俺たちはようやく息をついた。
しかし、安堵するのも束の間——
ダンジョンが変化を始めた。
「——またか!」
カインが驚愕の声を上げる。
壁が歪み、通路の形がねじ曲がる。先ほどまで一本道だった場所に、いくつもの扉が現れた。
「……迷宮化?」
エリシアが呟く。
「くそ、嫌な予感がするぜ……!」
カインが剣を構えながら辺りを警戒する。
俺も闇の刃を呼び出した。
このダンジョンは、まるで生きているかのように姿を変えている。
普通のダンジョンならば、一度作られた構造が変化することはない。
だがここは違った。
「さっきまでの道が……消えてる」
エリシアが不安そうに後ろを振り返る。
たしかに、俺たちが歩いてきた通路は、まるで最初から存在しなかったかのように消失していた。
「これじゃ戻れねえじゃねえか……!」
カインが苛立ちを滲ませる。
だが、今は冷静にならなければならない。
「進むしかないな」
俺は前方にできた扉を睨む。
全部で三つ。
左の扉は黒く染まり、紫色の模様が刻まれている。
中央の扉は歪み、まるで幻影のように揺らいでいる。
右の扉は赤黒い瘴気を放っていた。
どれを選んでも、まともな道とは思えない。
「どれにする?」
カインが眉をひそめる。
「どれを選んでも安全じゃなさそうね……でも、止まっていても仕方がないわ」
エリシアが決断を促す。
俺は少し考え——
中央の扉を選んだ。
「ここを行くぞ」
俺が扉に手をかけると、冷たい感触が指先に伝わる。
ゆっくりと押し開くと——
中には、見覚えのある光景が広がっていた。
「……これは?」
俺は思わず息を呑む。
そこにあったのは、かつて俺が暮らしていた町の光景だった。
だが、違和感がある。
人の姿が見えない。建物は無傷なのに、まるで誰も住んでいないかのように静まり返っている。
「……幻覚?」
エリシアが眉をひそめる。
いや——
これは単なる幻覚ではない。
何かが、俺たちを試している。
そして、試す者はおそらく——
このダンジョンそのものだ。




