第十話・第四節:迫る異変
戦いが終わった後の静寂が、耳にじんと響く。
アンデッドの残骸はすでに崩れ落ち、霧のようになって消えていった。しかし、それでもなお、この場には得体の知れない不気味さが漂っている。
「……本当に、終わったのか?」
カインが疑わしげに呟く。
「……わからない」
俺も正直なところ、確信は持てなかった。
ただ、一つ言えるのは——先ほどの敵は、普通のアンデッドとは明らかに違ったということだ。
「このままダンジョンの奥へ向かうの?」
エリシアが不安げに尋ねる。彼女は冷静さを保とうとしているが、その声には微かな動揺が混じっていた。
「当然だ。ここで立ち止まるわけにはいかない」
俺がそう言うと、カインも頷く。
「まあ、これ以上無駄に時間を食うわけにもいかねぇしな……けど、気をつけろよ。あのアンデッドみたいなのがまだいるかもしれない」
「わかってる」
俺たちは足元に転がる石や瓦礫を踏み越えながら、先へ進んだ。
ダンジョンの奥へと向かうにつれ、周囲の空気がじわじわと変化していく。
まるで、何かに見られているような——そんな気配がする。
「ねぇ……何かおかしくない?」
エリシアが立ち止まり、周囲を警戒する。
確かに、妙だ。
さっきまでとは違う……何かが違う。
「これは……」
俺が言葉を探していると、不意に——
ガコンッ!
周囲の壁が、まるで生き物のように歪んだ。
「ッ!?」
「な、なんだ!?」
カインが驚きの声を上げる。
ダンジョンの構造そのものが変化している——まるで、意思を持っているかのように。
「入り口が……」
振り返ると、そこにあったはずの道が塞がれ、新たな道が生まれていた。
「閉じ込められた……ってこと?」
エリシアが息を呑む。
「いや、それだけじゃない。ダンジョンが——形を変えた」
まるで俺たちを試すかのように、あるいは追い詰めるかのように、迷宮がその姿を変えたのだ。
(これが、ダンジョンの異変……?)
直感的に、これは偶然ではないと理解する。何者かが意図的に仕組んだものだ。
だが、それが誰なのかはわからない。
「とにかく、慎重に進もう」
俺たちは互いに頷き合い、足を踏み出した。
この先に、何が待ち受けているのか——それは、まだ誰にもわからなかった。




