第十話・第二節:門より出ずる者
暗闇の奥から、ゆっくりと影が現れる。
まず見えたのは、異様に長い腕。骨ばった指が門の縁を掴み、ギリギリと不快な音を立てる。その後に続くのは、縫い合わされたように不自然な胴体。そして、裂けた口がだらりと開き、よだれを垂らしながら低い呻き声を漏らした。
「……新手のアンデッドか」
俺は冷静に敵を観察する。だが、今までのゾンビとはどこか違う。まるで何かを”待ち侘びていた”ような……そんな異質さを感じた。
「そんな……これは……」
エリシアが僅かに息を呑む。彼女の手がわずかに震えているのを、俺は見逃さなかった。
「エリシア、知っているのか?」
「……わからない。でも、今までのアンデッドとは違うのは確か……」
カインが剣を構え、一歩踏み出す。
「なら、やることは変わらねえ。ぶっ倒すだけだ!」
その言葉を合図に、俺たちは一斉に動いた。
俺は闇の力を込め、腕から刃を生やす。黒い波動が脈動し、刃が形を成すと同時に、敵のアンデッドがこちらに向かって突進してきた。
「ハァッ!」
カインの剣が唸りを上げる。だが、アンデッドは異様な速度で回避し、カインの背後に回り込んだ。
「チッ……!」
カインが咄嗟に身を引く。しかし、アンデッドの爪が彼の肩をかすめ、血が舞う。
「カイン!」
エリシアが即座に支援に回る。彼女のナイフが閃き、アンデッドの腕に突き刺さった。
「ぐ、あぁぁ……!」
アンデッドが怯んだ一瞬の隙を見逃さず、俺は刃を振りかぶる。
「そこだ……!」
黒い刃が空を切り裂き、アンデッドの胴体を一刀両断する。しかし——
「……まだ動くのか」
切断されたはずの胴体が、瞬く間に繋がり、再び立ち上がる。
「再生能力持ちか……厄介だな」
俺は刃を構え直し、アンデッドと対峙する。
その時——背後で、エリシアが小さく呟いた。
「……やっぱりそう……これは……」
彼女の表情には、強い動揺が滲んでいた。
(やはり、何かを知っているのか……?)
疑念を抱きつつも、目の前の敵を倒すことが先決だ。
俺は再び刃を握りしめ、闇の力を解放する。




