第九話・第二節:変貌するダンジョン
俺たちはレジスタンスの物資調達部隊と共に、廃墟となった市街地を進んでいた。
崩れたビル、錆びついた車両、割れたアスファルト。
ここはかつて人々が行き交い、生活していたはずの場所だ。
だが、今は違う。
「……静かね」
エリシアが呟く。
「普段ならもっとアンデッドが出てくるはずなのに」
「そうなのか?」
「ええ。ダンジョンの影響で、街の至るところにアンデッドが出没してるの。でも、今日は妙に静か……まるで何かを待っているみたい」
エリシアの不安げな表情に、俺も警戒を強める。
「カイン、念のため警戒を強化したほうがいい」
「チッ……確かに変だな。おい、みんな、警戒を怠るな!」
カインの号令に、レジスタンスのメンバーが武器を構える。
俺も、右手に力を込めた。
何かが起こる——その直感が、俺の中で警鐘を鳴らしていた。
※
異変は突然だった。
「……あれ、ダンジョンの入り口が——?」
先頭にいたメンバーが立ち止まり、驚愕の声を上げる。
俺たちの目の前には、廃ビルの地下へと続く階段があった。ここには——否、ここにもダンジョンの入り口があったという。
しかし——
「……ない?」
そこにあったはずのダンジョンゲートが、消えている。レジスタンスの誰かがそう言った。
「どういうことだ……!? ダンジョンが移動したのか?」
カインが苛立ったように周囲を見回す。
「ダンジョンの入り口が増えることはあっても減ることはない。まして勝手に変わるなんて、今まで一度もなかったわ……」
エリシアの声にも困惑が滲んでいる。
だが、異変はそれだけでは終わらなかった。
「……!! 前方、高速接近!!」
見張りの一人が叫ぶ。
その瞬間——
ズシャアアアッ!!
瓦礫の山を突き破って、黒い影が飛び出してきた。
「っ……!」
俺は反射的に跳び退る。
目の前に現れたのは——
「……かぼちゃ頭の群れか」
鮮やかなオレンジの頭を持つ異形の怪物たち。
その数、十体以上。
ハロウィンの飾りのように見えるが、そいつらが纏う禍々しい気配は本物の殺意だった。
「くそっ、やっぱりただじゃ済まねぇか!」
カインが剣を抜き、戦闘態勢を取る。
「蒼真、やれる?」
エリシアが俺を見上げる。
「もちろん」
俺は腕に闇の力を集中させた。
(どうやら、試されるのは”人間らしさ”だけじゃなさそうだな)
戦闘の幕が、切って落とされた。