第八話・第七節:レジスタンスの決断
戦闘が終わったあとも、レジスタンスの面々は俺を遠巻きに見ていた。
エリシアだけが俺のそばに立っているが、他の連中は明らかに警戒している。
まあ、当然だろう。
俺が戦っていた時、奴らの目には俺が“化け物”にしか見えなかったはずだ。
カインが腕を組み、渋い表情を浮かべる。
「さて……」
彼が周囲を見渡しながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「お前をここに迎え入れるかどうか……俺たちで決める必要があるな」
「……ああ」
俺は素直に頷いた。
エリシアが焦ったように口を開く。
「ちょっと待って! カイン、あなたまさか——」
「俺の一存でどうこうするつもりはねぇよ」
カインは肩をすくめる。
「ただな、こいつはどう見ても普通の人間じゃねぇ。受け入れるにしろ、拒むにしろ、全員で決めなきゃいけねぇだろ?」
エリシアは悔しそうに唇を噛んだが、それ以上何も言わなかった。
カインは俺を見据え、改めて問いかける。
「お前は、これからどうするつもりだ?」
「……」
その問いに、俺はすぐには答えられなかった。
元の世界に戻りたかった。元の自分に戻りたかった。
だけど、今の俺は——
(本当に、元の自分に戻れるのか?)
たとえ世界と自分自身が元通りになったとしても、この記憶を抱えたまま、以前のような生活なんて俺にできるのか?
もし戻れたとしても、俺は——
(……俺は、何のために戦っている?)
不意に、脳裏に事故に遭う直前の記憶がよぎる。
ビルのガラスに映った自分の姿。
何かに違和感を覚え、立ち止まった。
スマホの画面には、知らない番号からの不在着信がいくつも並んでいた。
不吉な胸騒ぎがした。
——その直後だった。
視界の端から、猛スピードで突っ込んできたトラック。
ブレーキの音。
叫び声。
衝撃——
(……あれは、ただの事故だったのか?)
もし、あの瞬間からすべてが仕組まれていたのだとしたら?
俺は、偶然死んだんじゃなく——誰かに“殺された”のだとしたら?
不意に、脳裏にどこかの研究施設の光景がよぎる。
無機質な壁、冷たい実験台、そして——白衣の男たち。彼らは俺を殺そうとしている。
存在しないはずの記憶を俺は思い出していた。
そして俺は直感する。
——あの連中が、この世界に関わっているのは間違いない。
俺の脳は俺が忘れたはずのことを覚えている。たとえこの異質な力やダンジョンの記憶が消えたとしても、元の自分には戻らない。
俺にできることはただ、前に進むことだけだ。
戦う理由なんて、考えるまでもなかった。
「……俺は、このダンジョンの正体を暴く」
そう答えた瞬間、空気が変わった。
レジスタンスの面々がざわめく。
「正体を、暴く……?」
カインが目を細める。
「ああ。俺は、元からこんな体質だったわけじゃない……俺に何故こんな力があるのか、それを知っているヤツらがいる。そいつらを突き止めるまで、俺は戦い続ける」
カインはしばらく黙っていたが、やがてニヤリと笑った。
「ハッ……面白ぇ。お前、マジで化け物みてぇな強さしてるのに、意外と人間臭いこと言うんだな」
「……そうか?」
「そうさ。だが——」
カインは、鋭い眼光を向けてきた。
「それでも、お前が“人間”である保証はねぇ。俺たちはお前のことをよく知らねぇし、ここで信頼できるかどうかもわからねぇ」
「……それは、そうだな」
俺は頷く。
そう簡単に信用してもらえるとは思っていなかった。
カインは腕を組み、少し考え込んでから言った。
「一つだけ、条件を出そう」
「条件?」
「しばらくの間、お前は俺の監視下に置かれる。俺が“こいつは信用できる”と判断するまでは、自由に動くことは許さねぇ」
「……なるほど」
要するに、レジスタンスの中で“試される”ということか。
「それでいい」
俺がそう答えると、カインは満足げに頷いた。
「よし、それで決まりだ。……エリシア、お前はそれでいいか?」
エリシアは少し複雑そうな表情を浮かべていたが、やがて小さく頷いた。
「……はい。でも、私はずっと彼の味方です」
「ハハッ、そりゃ頼もしいこった」
カインは笑う。
「……じゃあ、決まりだな。お前は今日から、レジスタンスの一員……いや、“見習い”ってところか」
カインが手を差し出す。
俺はそれをしっかりと握り返した。
こうして——俺は、レジスタンスの一員として新たな一歩を踏み出した。




