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第八話・第三節:人間なのか?

 エリシアに案内され、俺はレジスタンスの奥へと進んでいった。


 通路を抜けると、比較的まともな作りの部屋に出る。木製の机と椅子が並び、壁にはダンジョンの地図らしきものが貼られていた。中央の机の向こう側に、一人の男が座っている。


 歳は四十代後半といったところか。浅黒い肌に、短く刈られた髪。鍛え上げられた体つきと鋭い目つきが、戦場を生き抜いてきた歴戦の兵士であることを物語っていた。


「リーダー、連れてきました」


 エリシアがそう告げると、男——レジスタンスのリーダーは俺をじっと見つめた。


「お前が蒼真か」

「そうだが」


「エリシアから話は聞いた。お前はダンジョン内でアンデッドどもを蹴散らし、外に出たところをエリシアに拾われた……そうだな?」


「ああ、間違いない」


 リーダーは腕を組んだまま、しばらく俺を観察していた。


「……ひとつ聞く。お前は、人間なのか?」


 空気が張り詰める。


 部屋の隅にいた男たちも、明らかに警戒を強めた。


 俺は一瞬、言葉に詰まった。


 自分が「人間なのか?」——そんなこと、考えたこともなかった。


 だが、冷静に思い返せば、俺はすでに”普通の人間”ではない。


 闇の力を宿し、腕から異形の刃を生やし、異常な身体能力を持つ。


 リーダーはさらに言葉を続けた。


「お前の戦いぶりは、どう考えても尋常ではない。あれほどの怪物どもを一人で蹴散らすなど、人間業とは思えん」


 俺は軽く肩をすくめる。


「確かに、今の俺は普通じゃない。だが、それが何だ?」

「お前が”人間”じゃないなら、俺たちの敵になり得るということだ」


 その言葉に、周囲のレジスタンスの戦士たちがさらに警戒を強める。


 エリシアが一歩前に出た。


「待ってください、リーダー! 蒼真は私を助けてくれたんです。あの力がなかったら、私はあそこで死んでいました!」


 身に覚えのない話だった。本当に起きたことなのか、それともエリシアが俺を庇って嘘をついてくれたのか、俺には判断できなかった。


 リーダーは彼女を一瞥すると、再び俺に視線を戻す。


「……お前自身は、どう思っている?」

「俺自身?」

「そうだ。お前は、自分が人間だと思っているのか?」


 俺は答えに詰まった。


 思えば、俺はすでに一度”死んだ”身だ。


 そして、目が覚めたときには、異形の力を持っていた。


「……わからない」


 正直に答えた。


 リーダーは目を細め、何かを考えているようだった。


 やがて、彼は静かに言った。


「お前の力は危険だ。だが、我々が戦うために必要な力でもある。……しばらく様子を見させてもらう。だが、もしお前が”化け物”に成り果てたときは——」


 リーダーの目が鋭く光る。


「そのときは、俺たちが始末する」

「……なるほど、随分と歓迎されてるな」


 俺は乾いた笑いを浮かべた。


 エリシアだけが、複雑そうな表情をしていた。

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