第八話・第一節:レジスタンスの影
市街地を抜けると、夜の冷たい風が肌を刺した。
戦いを終えたばかりの体には、その冷気が妙に心地よく感じられる。
エリシアも俺の隣で息を整えながら、警戒を解いていない様子だった。
「……とりあえず、こっちは無事に突破できたな」
俺が言うと、エリシアは小さく頷く。
「でも、蒼真……やっぱり、その腕、大丈夫なの?」
エリシアの視線は、俺の右腕に注がれていた。
さっきの戦いで現れた”闇の刃”は、戦闘が終わると消えた。だが、腕のひび割れた部分はまだ完全には戻っていない。
それどころか、肌の奥に何か得体の知れない”違和感”が残っている。
「……大丈夫だ」
今はそう言うしかなかった。
俺自身、何が起こっているのか分かっていない。
それでも——
「そんなことより、お前のレジスタンスとやらは、本当に信用できるんだろうな?」
俺はエリシアに問いかけた。
さっきの戦いで、彼女がただの民間人ではないことはよく分かった。少なくとも、一般人があそこまで的確に援護できるはずがない。
彼女がレジスタンスの一員であることは確かだろう。
問題は、そのレジスタンスが俺にとって”味方”になり得るのか、ということだった。
「……それは、私が保証する。レジスタンスは、人類を守るために戦っている組織よ」
エリシアは真剣な表情で言う。
「じゃあ、俺みたいな”異形”も受け入れてくれるのか?」
俺の問いに、エリシアは一瞬言葉を詰まらせた。
その反応が、すべてを物語っている。
「……」
やはり、そういうことか。
「正直に言えば……分からない」
エリシアは目を伏せながら、ゆっくりと続けた。
「私は、あなたを信じてる。でも、レジスタンス全体がそうとは限らない。彼らは”人類のための戦い”を掲げてる。もし、あなたの力が”人類を脅かす”ものだと判断されたら……」
「敵と見なされる、ってわけか」
俺は自嘲気味に笑う。
まぁ、予想はしていた。
俺自身、自分が”人間”のままなのか、もう分からなくなりかけているのだから。
「……それでも、私はあなたをレジスタンスに引き合わせたい。もし、彼らが敵になるとしても……私は、あなたについていく。あなたの力になりたいの」
エリシアの言葉には迷いがなかった。
彼女が俺に好意を抱いているわけではないことは分かる。これはただの情ではない。彼女は俺の”存在”に何かを感じ取っているのだ。
「お前がそう言うなら、とりあえず行ってみるか」
俺は肩をすくめた。
どのみち、俺には行く場所もない。
レジスタンスとやらが俺を受け入れるのか、排除しようとするのか——それを確かめるのも悪くない。
そう考えながら、俺はエリシアの示す方角へと足を踏み出した。




