第六話・第四節:“本命”の出現
夜の静寂が、一瞬の安堵をもたらした。
だが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。
ズズズ……ッ!
まだ閉じきっていなかった裂け目が、再び不気味に蠢く。
「やっぱり、終わっちゃいなかったか……」
俺は構えを解かない。
さっきの”上位種”だけでもかなりの強敵だった。
それを倒した直後に、さらにヤバい何かが出てくる気配がする。
「……蒼真、気をつけて」
少女の声には、さっきまでとは違う緊張が混じっていた。
「こいつは、さっきの”上位種”とは格が違う……」
「どういうことだ?」
俺が問う間にも、裂け目の奥から何かが”にじり出てくる”。
最初に見えたのは、細長い指。
その指には、鋭い鉤爪がついていた。
そして——
バギャァッ!!
裂け目が大きく裂け、一気に”それ”が姿を現す。
そいつは、まるで”カボチャ頭の王”のようだった。
巨躯——いや、“巨人”と呼ぶべきサイズ。
カボチャの顔は縦に長く裂け、内部にはギラギラと光る無数の眼球が蠢いている。
そして、その背には黒いマントのようなものが広がっていた。
「……なんだよ、あれ……」
俺は思わず息を呑む。
さっきの上位種とは比較にならない威圧感。
街の建物すら見下ろすほどの巨大な体躯。
まるで——“この世界の支配者”とでも言わんばかりの存在感。
「“ナイトメア・パンプキン”……」
少女がその名を呟く。
「こいつが……“本命”……?」
彼女は小さく頷いた。
「ただの”異形”じゃない……“ナイトメア・パンプキン”は、ダンジョンに現れる”ハロウィンの王”……人間の悪夢を喰らい、力を増す存在……」
「……つまり、こいつがボスってわけか」
カボチャの裂け目が歪み、不気味な音が響く。
「■■■■■■■■■■■■……」
それは、“上位種”のものとは比べ物にならないほど強烈な”声”だった。
耳を通じて脳に直接響く、破壊的なノイズ。
「ぐっ……!」
頭の中がかき乱される感覚。
俺はすぐに闇の力を使い、影響を振り払う。
しかし、その間に——
バギィンッ!!
“ナイトメア・パンプキン”が腕を振るった。
ただの一撃で、近くの建物が粉砕される。
「っ……!」
反射的に少女を抱えて飛び退く。
瓦礫が俺たちのいた場所に降り注ぎ、轟音とともに辺りが土煙に包まれた。
「……洒落になってねぇな」
ここまでの”圧倒的な力”を前にするのは、俺が蘇ってから初めてだった。
でも——
「やるしかねぇか……」
俺は深く息を吸い、拳を握る。
闇の力が、再び俺の体を覆う。
目の前の怪物は、まさに”最強の敵”。
だが、俺はそれを超えていかなきゃならない。
俺は、もう”ただの人間”じゃない。
「……ハロウィンの王様だか何だか知らねぇが——」
俺はヤツを睨みつけ、ゆっくりと拳を振りかざした。
「ぶっ潰すぞ、テメェ……!」
そして——
決戦の幕が、今、切って落とされた。




