第六話・第二節:空間の裂け目から現れたもの
ズズズ……
耳障りなノイズのような音が響く。
街の外れに浮かぶ黒い亀裂。
まるで虚空に傷がついたようなその裂け目から、“何か”がゆっくりと姿を現そうとしていた。
「……また厄介なもんが出てきたな」
俺は舌打ちしながら構える。
さっきの”監視者”も十分異常だったが、この亀裂から漏れ出る雰囲気はそれ以上にヤバい。
「蒼真、警戒して」
少女が緊張した面持ちで警告する。
俺が答えるよりも先に——
ズシャッ……!
裂け目から”何か”が這い出てきた。
それは——
「……カボチャ?」
俺は思わず眉をひそめた。
裂け目から姿を現したのは、人間ほどの大きさをした”カボチャ頭”の異形だった。
しかし、それは今まで遭遇したカボチャ頭とは明らかに違っていた。
その体躯は異常なほどに巨大で、肩幅も広く、四肢は不気味に長い。
まるでスーツを着た紳士のような佇まいをしているが、その顔——つまりカボチャの部分には、いくつもの裂け目があり、無数の赤い瞳が蠢いていた。
「……うわ、気持ち悪ぃな」
思わず呟く。
「“通常のカボチャ頭”とは違う……これは”上位種”かも」
少女の声にも緊張が混じる。
カボチャ頭の上位種——?
そいつはゆっくりとこちらを見下ろしながら、一歩、また一歩と近づいてくる。
すると——
「■■■■■■■■■……」
カボチャ頭が、“言葉”を発した。
耳障りなノイズと、不協和音のような響き。
人の言葉ではない。
それどころか、聞くだけで脳が焼かれそうなほどの”異質な音”だった。
「っ……!」
俺は頭を押さえる。
強烈な不快感が、脳髄を突き刺した。
「気をつけて……“声”が、精神に直接影響を与えてる!」
少女が叫ぶ。
このままじゃマズい——
俺はすぐに闇の力を練り、頭の中を”浄化”するように意識を集中させた。
すると、ノイズが少しずつ薄れ、意識がはっきりしてくる。
「……クソ、こんな手まで使ってくるのかよ」
俺は拳を握る。
そして、目の前の”上位種”を睨みつけた。
「だったら、ぶっ飛ばすまでだろ」
再び戦闘態勢を整える俺。
カボチャ頭の上位種も、それに応じるようにゆっくりと両腕を持ち上げた。
次の瞬間——
戦いの幕が切って落とされた。




