第六話・第一節:新たな脅威
夜の静寂が戻ってくる。
黒い霧はすでに消え、“監視者”は完全に消滅した。
しかし——
俺の中に渦巻く違和感は、まったく消えていなかった。
「……蒼真」
少女の声が、静かに響く。
俺はゆっくりと視線を向けた。
彼女は不安そうに俺を見つめていた。
「さっきの敵……やっぱり普通じゃなかったわね」
「……ああ」
俺は短く答える。
“監視者”。
俺と同じ顔を持ち、俺と同じ力を使いこなす存在。
そいつはまるで——俺の”影”のようだった。
「なぁ、あいつ……何だったんだ?」
少女に問う。
彼女は少しの間、沈黙する。
そして——静かに口を開いた。
「……『調整』」
「……何?」
「あなたが”目覚めた”ことで……“何か”が動き出してる」
少女の瞳が、不気味なほどに光る。
まるで——“すべてを見通している”かのように。
「“監視者”は、その”調整役”よ」
「……“調整”?」
嫌な予感がした。
「あなたが”蒼真”であることを……“確認”するための存在」
「……確認?」
わけがわからない。
「じゃあ、あいつは”俺かどうかを試した”ってのか?」
少女は無言で頷いた。
「……もし俺が”本物の蒼真”じゃなかったら、どうなってた?」
少女は微笑んだ。
「“消されていた”でしょうね」
背筋が凍る。
冗談じゃない。
「……チッ、冗談じゃねぇな」
俺は舌打ちし、拳を握り直す。
「“監視者”を倒しても、これで終わりじゃないってことか?」
少女は、静かに夜空を見上げた。
「……ええ」
その瞬間——
ズズズ……
遠くで、異様な音が響いた。
「ッ!?」
俺は振り向く。
——街の外れ。
そこに”異常”が現れていた。
黒い亀裂が、空間に浮かんでいる。
まるで、“向こう側”と繋がる扉のように。
そして——
“何か”が、そこから出てこようとしていた。
「……来たわね」
少女が静かに呟く。
新たな脅威が、すぐそこまで迫っていた。




