第五話・第四節:決着
俺と”もう一人の俺”が対峙する。
互いに拳を握り、闇の力を宿したまま。
「……」
周囲の空気が張り詰めている。
静寂の中、霧が蠢く音だけが響いていた。
次の瞬間——
バッ!!
俺たちは同時に駆け出した。
狙うは正面。
拳を握り、ぶつかり合う——
——ドガァッ!!!
黒い衝撃波が炸裂する。
俺の拳と、“俺”の拳が真っ向から激突した。
衝撃で地面がひび割れる。
夜の街が震える。
「クッ……!」
力の均衡。
しかし——
違和感があった。
“俺”の拳は確かに重い。だが——決定的に足りないものがある。
俺は瞬時に理解した。
「……お前、本当の”俺”じゃねぇな」
“俺”は何も答えない。
だが、その沈黙が何よりの答えだった。
——こいつは、俺ではない。
俺の”影”。
俺の”可能性”。
“監視者”という名の、“模造品”。
「なら、終わらせるぜ」
俺は闇の力を拳に集中させる。
黒い炎が渦を巻き、拳に宿る。
そして——全力で叩き込む。
「喰らえ——ッ!!!」
——ドゴォッ!!!
拳が”俺”の顔面を撃ち抜いた。
次の瞬間——
“俺”の身体が、霧のように崩れ始める。
黒い霧が舞い、虚空へと消えていく。
“監視者”は、何も言わなかった。
ただ、最後に——ほんの僅かに微笑んだように見えた。
そして——完全に霧散した。
「……ふぅ」
俺は拳を下ろし、深く息をつく。
終わった。
「蒼真……」
少女が、不安げに俺を見る。
「……大丈夫?」
「……ああ」
俺はゆっくりと頷く。
心の奥に、奇妙な感覚が残っていた。
まるで——“何か”を思い出しかけたような。
だが、それが何なのかはわからない。
俺は夜空を見上げ、静かに呟いた。
「……これで終わりじゃねぇんだろうな」
遠くで、かすかに”何か”の気配がした。
新たな敵か、それとも——
俺は拳を握り直し、前を向く。
まだ”帰還”の道は見えない。
だが——それでも、俺は進むしかない。




