第五話・第三節:対峙する二人
「……ふざけるな」
俺は低く呟いた。
目の前にいる”監視者”。
そいつの顔は——俺と同じだった。
血の気が引く。
目の錯覚か? それとも何かの精神攻撃か?
だが——
「……■■■」
囁きが、頭の奥をじわじわと蝕む。
それは俺の知らない言葉。
それなのに、どこか”懐かしい”ような感覚を覚えた。
「……蒼真」
少女が不安げに俺を見ている。
俺は一度、深く息を吐いた。
「……ありえねぇ」
“俺”と同じ顔。
“俺”と同じ青い光を宿した瞳。
もし本当にこいつが俺自身だとしたら——
俺は、一体何者なんだ?
「……黙ってないで、何か言えよ」
俺は”もう一人の俺”に向かって言う。
だが、そいつは何も言わなかった。
ただ——ゆっくりと、口の端を吊り上げた。
まるで、俺を”試す”かのように。
次の瞬間——
監視者が、一歩踏み出した。
「——ッ!」
瞬間、空気が裂ける。
シュバァッ!!
黒い霧が荒れ狂い、周囲の闇が一気に飲み込まれていく。
そして——
俺と同じ顔をした監視者が、俺とまったく同じ構えをとった。
「……なるほどな」
理解した。
こいつは”俺のコピー”。
いや——違う。
“俺が辿り着くべき未来の姿”——そう言いたげな雰囲気すらあった。
「面白ぇ」
俺はニヤリと笑う。
「なら、ぶっ潰して証明してやるよ。俺は——“俺”以外の何者でもないってな!!」
次の瞬間、俺は全力で踏み込んだ。
黒いエネルギーを拳に込め、もう一人の”俺”へと叩きつける。
同時に——
“もう一人の俺”も、まったく同じ動きで拳を放ってきた。
——ドガァッ!!!
衝撃が夜の街を震わせる。
闇の力がぶつかり合い、互いに弾かれる。
俺は地面を滑るように後退し、すぐに体勢を立て直した。
「……やるじゃねぇか」
“俺”もまた、微笑んでいた。
まるで——“俺自身の成長を確かめるように”。
そして、再び静かに構えを取る。
「……いいぜ。続きといこうか」
俺は、拳を握り直した。




