第五話・第二節:監視者の正体
黒い霧が、さらに濃くなっていく。
監視者の囁きが、頭の中に直接響くような錯覚を覚えた。
「……■■■■■」
言葉ではない。“音”としてすら成立していない。
ただ、不快な何かが脳内を擦る感覚だけが残る。
「……っ!」
俺は咄嗟に身構えた。
——だが、遅かった。
視界の端、霧の中から“何か”が襲いかかってくる。
“黒い爪”が、俺の胸を引き裂こうと迫る——
ズシャァッ!!
「……ッ!!」
衝撃が走る。
……が、致命傷ではない。
黒い爪は、俺の体表を掠めるように通り過ぎた。
だが、その一瞬だけで——皮膚が異様に焼けるような感覚がした。
「な、んだ……?」
じりじりと、痛みが広がる。
普通の攻撃とは違う。何か、“別の力”が作用している——
「蒼真!」
少女の声が飛ぶ。
「そいつの攻撃……“霊的干渉”を伴ってる! 肉体だけじゃなく、“存在”そのものを削るのよ!」
存在を——削る?
「……面倒なモン持ってやがるな」
俺は軽く息を吐くと、拳を握る。
……少しだけ、面白くなってきた。
「つまり、俺の”存在”が消える前に、あいつをぶっ潰せばいいんだろ?」
再び、監視者と向き合う。
黒い霧の中——そいつは、ゆっくりと姿を現した。
長い外套をまとい、フードで顔を隠した黒い影。
だが、その内側——フードの奥に、“何か”が光っていた。
「——■■■、■■■」
囁きが、より鮮明になる。
それと同時に——
監視者のフードの奥に”青い光”が灯った。
「青い……光?」
俺は思わず目を細める。
その色——どこかで見覚えがあった。
そうだ。
“蘇った俺の目の色”と、同じ色——
「……おい、まさか」
脳裏に浮かぶ、最悪の可能性。
その時だった。
監視者のフードが、ゆっくりと持ち上がる。
そして——その”顔”が、はっきりと姿を現した。
「——ッ!?」
俺は息を呑む。
そこにあったのは——“俺自身の顔”だった。