第四話・第二節:黒幕の影
——世界の敵にされる運命。
少女の言葉が頭の中で反響する。
俺は”死を超越する兵士”として造られ、そして……最終的に”敵”に仕立て上げられる。
それが事実なら、誰が、何の目的でそんなことを企んでいるのか。
「……黒幕ってのは誰なんだ?」
俺の問いに、少女は少しだけ口を閉ざした。
まるで、言うべきかどうか迷っているような沈黙。
だが、やがて小さく息を吐き、口を開く。
「“オルド・ノクス”——それが黒幕の名前よ」
「……オルド・ノクス?」
聞いたことのない名前だった。
「組織の名前よ。表向きには存在しない、影の勢力。でも、その影響はすでに世界の至るところに及んでいる」
少女はコートのポケットから、小型のデバイスを取り出し、操作する。
すると、再びホログラムが浮かび上がった。
そこに映し出されたのは——
「……軍?」
俺の目の前に広がるのは、黒い装甲車と無数の武装兵士。
だが、彼らの装備には見覚えのない紋章が刻まれていた。
「オルド・ノクスの私兵よ。彼らは政府の軍隊じゃない。ダンジョンの発生と同時に暗躍し始めた”異端の勢力”」
「……つまり、“そいつら”が俺を造ったってことか?」
少女はゆっくりと首を横に振る。
「違う。お前を造ったのは、もっと別の存在。オルド・ノクスはその”成果”を奪おうとしているのよ」
「……何?」
「お前は、“予定外”だったの」
少女の言葉に、俺は眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「“死を超越する兵士”の実験は、まだ完全に成功していなかった。本来なら、実験体はすべて管理されるはずだった。でも……お前だけは違った」
「俺だけが”管理外”ってことか」
「そう。お前は、“生き返るべきではなかった存在”なのよ」
だから、俺は狙われる——と。
俺は無言で夜空を見上げる。
(そんな話、信じられるか……)
そう思いたかった。
だが、俺が”異形”になってしまったことは紛れもない事実。
そして、俺のこの”力”。
何かが裏で仕組まれているのは間違いない。
「……お前の目的は何だ?」
俺は改めて少女を見つめる。
レジスタンス——つまり、この陰謀に抗う勢力の一員である彼女。
俺にこの情報を伝えるということは、俺を味方に引き込むつもりなのか?
少女は少しだけ口元を歪めた。
「単純よ。“世界の敵”になる前に、“お前自身の選択”をすること」
「俺自身の選択……?」
「そう。お前が本当に”世界の敵”になるのか、それとも”抗う側”になるのか。それを決めるのは、お前自身よ」
その言葉は、まるで俺の心の奥を見透かしているようだった。
俺は、一体何者なのか——
この世界の”真実”は何なのか——
答えを出すには、まだ情報が足りない。
「……少し考えさせてもらう」
そう言うと、少女は静かに頷いた。
「……いいわ。ただし、考える時間はそう長くないわよ」
少女の紅い瞳が、暗闇の中で淡く光る。
まるで、“近いうちに全てが動き出す”と告げるかのように——。




