第三話・第二節:仮面の力
俺の指先が、黒い仮面に触れた瞬間——
——ザワァァァッ!!
まるで生き物のように仮面が蠢き、冷たい波動が全身に駆け抜けた。
一瞬、視界が暗転する。
耳鳴りが響き、意識が引きずり込まれるような感覚に襲われた。
(……クソ、何だこれは……!)
全身の血液が逆流するかのような錯覚と共に、頭の中に”何か”が流れ込んでくる。
——闇の力を受け入れろ……
——お前はすでに”境界”にいる……
——選べ……
幾重にも重なる声が、脳内に直接響く。
それは命令とも、忠告とも取れる不可解な囁きだった。
俺は歯を食いしばりながら、意識を保とうとする。
だが、強烈な”視覚”が俺を支配し始めた。
目の前に広がるのは、“どこかの記憶”。
黒く染まった空。
崩れ落ちる都市。
地に伏せる人々と、それを踏みつける”異形の兵士”たち。
——その先に、“俺”がいた。
黒い炎を纏い、無数の敵を薙ぎ払い、破壊し尽くしている”俺”。
表情はない。
ただ、そこにあるのは——絶対的な”死”の支配者。
「……違う」
俺は思わず呟いた。
これは、“俺の未来”なのか?
「違う、俺は……こんなものになりたいわけじゃねぇ……!」
全力で意識を振り払う。
次の瞬間——
——ドクンッ!!
心臓が強く脈打つような感覚があった。
その瞬間、視界が元に戻る。
俺は再び、ダンジョンの祭壇の前に立っていた。
黒い仮面は、俺の手の中にある。
「……何だったんだ、今のは」
呼吸を整えながら、仮面を凝視する。
ただの物体ではない。
これは、“何か”の意思を宿している。
だが、今の俺にこれを解析する術はない。
(ひとまず、持ち帰るか)
このダンジョンは、まだ終わっていない。
この仮面にどんな秘密があるのか、それを知るためにも、一度外へ戻る必要がある。
俺は仮面を手にし、慎重にそれを収納した。
祭壇の闇の泉は、ゆっくりと静まり返っていく。
だが——
その奥底で、まだ”何か”が目を覚ましつつある気配がした。