第8話 五人のリーダーを紹介します
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
量子物理学のリーダーは、柏崎順太郎、四十二歳。
日本の最高学府で物理学を学び、大学院に進み博士課程を修了している。二〇一〇年から日本物理学研究所の研究員として過ごし、二〇一五年に大学に戻り助教授となるが、翌年退職している。
二〇一四年に発表した「量子トンネル効果に関する新理論」で注目を浴び、二〇一六年から調世会のプロジェクトメンバーとして参加、二〇二〇年からリーダーとして研究に当たっている。
ダークグレーの細身のスーツ姿の写真は、短髪にした黒髪に眼鏡を掛け、知的なイメージだ。
「柏崎くんは、常磐道部長の同級生らしいよ」
もしや、神楽も同級生ではないかと尋ねると「僕はその頃、海外で遊んでいたね」という返事だった。
高エネルギー物理学のリーダーは、星野龍生、四十歳。
二〇一一年、京都大学大学院工学研究科の博士課程を修了し、高エネルギー加速器研究機構 (KEK)の研究員になる。二〇一四年から「高エネルギー粒子加速器の設計と開発」プロジェクトリーダーを務めるが、二〇一七年に、メンバーごと調世会に引き抜かれている。
履歴書には、身長一八〇センチメートルと書かれている。上半身の写真は胸板が厚く、いかにもスポーツマンといった体格だ。カジュアルな白のポロシャツ姿に、やや茶色の髪に日焼けした笑顔で写っている。
どう見ても、このリーダー自身が高エネルギーだと思った。
ナノテクノロジーのリーダーは、築島光男、三十九歳。
二〇一二年、東京工業大学大学院理工学研究科の博士課程修了し、ナノテクノロジー研究センターの研究員になる。
時間運航プロジェクトにおけるナノテクノロジー部門の立ち上げは新しく、自己修復セラミックの素材開発の進展によって、二〇二一年から部門が設けられている。そのとき、築島にリーダーの白羽の矢が立った。
履歴書の写真は、白衣姿で写っている。眉間にしわを寄せ上目遣いの表情は、いかにも神経質そうで、研究者然としていた。
時間理論データ解析のリーダーは、雨宮静香、三十八歳。
二〇一三年、東北大学大学院理学研究科の博士課程を修了している。そのまま、助教授として勤務する傍ら「時間データの解析手法に関する新理論」や「時間旅行のシミュレーションモデル」といった内容を、初学者でも理解できるよう解説を加え動画にしネット上に公開していた。
それを神楽が見て、東北から連れ去ってきたという。
写真の雨宮は、亜麻色のロングヘアーがフラッシュライトを反射し輝いている。優しく微笑むその姿は、写真越しにもエレガントな佇まいを感じさせ、神楽が連れ去ってきた気持ちもわかる気がした。
藤江は「綺麗な人ですね」と思わず言葉を漏らすが、神楽は「そうかな」と連れない返事だった。
AIロボティクスは、昨年度立ち上げた新しい部門だそうだ。
リーダーは、桜庭夢、三十五歳。
二〇一二年に東京大学工学部を卒業し、民間企業に勤務している。神楽や柏崎の後輩にあたる。
サラリーマン時代は、AIを利用した商品開発やマーケティングの手腕を買われ、昨年度春に部長席への昇進が決まっていたが、それを上回る報酬を提示して、調世会が引き抜いた。
履歴書には、ごつごつとした顔に刈り上げた髪、顎には薄っすらと青く髭が濃い男性の写真が貼ってある。
「夢ちゃんの写真、ひどいよね。本人は、それほど岩石みたいな顔ではないから、怖がらなくてもいいよ」
藤江には、到底「夢ちゃん」と呼べる自信はない。