第5話 タイムマシンを見に行こう
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
四月も下旬に入ったある日、藤江は、地下の施設を案内された。
船越川の後について、エレベーターに乗り込む。
船越川は、五階、二階、四階ボタンを順に押し、操作パネルの下部を開けると、右手中指、左手薬指の順に指紋認証を行った。
エレベーターが動き出す。
地下の階に行くには、職員ごとに操作するボタン順や指紋認証する指が登録されている。
エレベーターの階表示が消え、停止した。
藤江は先に降りるが、そこはドア一つだけがあるエレベーターホールだった。後から降りてきた船越川は、パネルに再びコードを入力し、指紋認証しドアを開ける。
全てのエリアが同じ仕組みであり、覚えるパターンが十あることに、藤江は滅入っている。
「地下二階です」
船越川はドアを開け、どうぞと身を引いた。
ホールの先には、変哲もないオフィスビルの廊下が続いている。
廊下は、地下二階の執務エリアを周回するように環になっている。
廊下の両側には、総務班の事務室や会議室、情報監視室とプレートが貼られたドアが見える。この階も秘密のエリアには違いないが、設備自体は一般的なものだった。
地下三階の監視エリアでは、全国各地の大気データや地殻データを十数台のコンピュータを使って、職員三名が二十四時間体制で監視している。
冥界からの干渉が探知できるそうだ。
いざ、事件が起これば、監視エリアが本部となる。そのため、部屋の奥はホテル並みの滞在スペースになっていた。
地下四階へと降りる。
開発エリアは、中央の広い通路を挟んで、ガラス張りの大小の工作室が連なっている。
機器の設計を行っているチームもあれば、電子回路を作製しているチーム、金属からパーツを削り出しているチームと、多くの職員が作業している。フロアは、さながらジェームズ・ボンドが訪ねるQ課のような騒がしさだった。
第三開発室を通り過ぎたとき、神楽に声を掛けられた。
「やあ、藤江くん。ちょうど、冥界と通信できる携帯端末が完成したけど、見るかい? 前任の佐々木くんも一番いいところで異動しちゃったから、完成品を見られなかったんだよね」
神楽は、大きめのモバイル・バッテリーのような端末を両手に持ち、藤江の方に差し出した。
情報漏洩の一番の原因となりそうなのは、にこやかに話すこの男ではないかと、藤江は思った。
「神楽部長、よろしければ、一緒に五階に行きませんか」
呆れ顔の船越川が、神楽を施設案内に誘う。
「そうだね、開発も一段落したところだし、一緒に行って僕が説明しようか。五階のタイムマシンは、目玉商品だしね」
調世会の職員が「地下」を省いて階を言い表すことには慣れたが、それに続く「タイムマシン」には、驚きを隠せなかった。
三人でエレベーターに乗り込む。
神楽が階表示ボタンを押し、指紋認証を行った。
「エレベーターに乗り込んでから、トイレに行きたくなると、この操作が致命的になるよね」
神楽が軽口を叩いている間にも、地下五階に着く。
研究エリアは、ホールの先に、三メートルほどの広さの廊下が一直線に奥へと続いていた。微かなモーター音は聞こえてくるが、開発エリアとは比較にならなほど静かだ。
廊下の右側手前から監視室、会議室、給湯コーナーがあり、一番奥がトイレになっている。左側は、手前にサーバー室があり、その奥全てが制御室と研究室とで占められている。
藤江は、目にする現地と記憶にある平面図を重ね合わせた。
神楽は、先を歩き、廊下左側の中央にあるドアを開けて入っていく。
制御室は、入った正面の全面がガラス張りであり、その奥の研究室が見渡せる構造だ。ガラス面の下部には、コンソールパネルが連なり、大小さまざまのモニターやスイッチが見える。
研究室の中央には、直径五メートルほどのパイプの集合体のような球体が据え付けられている。
「これが、タイムマシンだね」
神楽は言った。