第4話 地下にある秘密基地
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
常磐道 勝清 42歳 日本宗教調世会調世部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
出勤三日目の午後、調整部長がコーヒーカップを片手に姿を見せる。
「調整部長の常磐道です」
そう挨拶した男性は、年齢は四十代前半、仕立ての良いスーツを着こなし、青系のネクタイは知的なイメージを漂わせている。
百七〇センチメートルほどの身長でありながら、すらりとした印象を与えるのは、贅肉のない身体をしているからだろう。髪は自然な感じで七三に分けている。柔らかな口調、穏やかな物腰であるが、薄い茶色の瞳の奥には、船越川と同じ鋭さが宿る。
「どうですか、初めて聞く方には作り話としか思えないでしょう。徐々に受け入れていただければ結構ですよ」
常磐道から業務に関する話はそれ以上なく、前職の公安調査官は大変ですよねとか、彼女は心配しているのではないですかといった世間話に終始した。
やはり、公安調査官は「前職」だった。
藤江に彼女はいない。
「事情あって、なかなか顔を出せませんが、今後ともよろしくお願いします」
常磐道は、コーヒーを飲み終えると、三十分ほどで出ていった。
翌日の朝、企画部長が図面と段ボール箱を台車に乗せ、顔を出した。
「おはようございます。企画部長の神楽です。『伝次郎部長』と呼んでもらっても構いません」
神楽伝次郎という名前なのだろう。わかりやすい。
年齢は、常磐道と同じ四十代前半。
白いシャツは、胸元を開け、袖を肘まで捲り上げている。シャツの上に、背が銀に光るグレーのベストを身に付けている。
髪はかき上げ、揉み上げから顎まで伸びる髭と口髭は繋がっている。
黒いズボン姿で立つその姿は、タイを付ければバーテンダーのようでもある。
身長は常磐道と同じ程度だが、常にふらふらと動いているせいで、すらりとした印象はない。
言うまでもなく、眼光は鋭かった。
「この施設の建築・電気・設備の完成図書とネットワーク経路図にセキュリティ設定の図書です。全部、頭に入れてください。これ、機密事項なので、出し入れを他人に頼めないんだよね。憶えたら、また保管しちゃうので、忘れないでね」
台車を部屋の片隅に置くと、神楽はすぐに部屋を出ていった。
藤江は、各階の平面図を見て、このビルの地下が想像以上のものであることを知る。
地下一階は、機械室であり、エレベーターでも表示されている。
しかし、建築図面は、地下二階から地下六階まで備えられている。エレベーターには、もちろん表示はない。
執務エリア、監視エリア、開発エリア、研究エリアに区分けされた地階は、地上のビル敷地の数倍は広い床面積だ。それぞれの階の図面類は、複雑かつ膨大だった。
地下六階は、隣を走る都営地下鉄大江戸線から電力線を引き込んだ変電施設になっていた。
十七時に神楽が図面類を回収に来る。
「どう、憶えた?」
神楽はそう聞くが、全てを読み解き憶えるには、相当な時間が掛かりそうだ。
図書の全てを頭に叩き込むのに十日間を要した。
途中、採用試験の面接官になってもらいますと当日の朝に言われ、神楽と共に四階奥の部屋で外国人を面接したことがある。
事前に「何も話さなくてもいい」と指示があり、三十分ほどの面接を行った。
その後の説明は一切なかった。
主導権は、調世会にあった。
何事においても、藤江に選択権は与えられず、調世会のスケジュールで進められている。
監視、管理されているのは、明らかに藤江の側だった。




