第28話 種明かしする神楽
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
常磐道 勝清 42歳 日本宗教調世会調世部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
柏崎 順太郎 42歳 量子物理学リーダー
星野 龍生 40歳 高エネルギー物理学リーダー
築島 光男 39歳 ナノテクノロジーリーダー
雨宮 静香 38歳 時間理論データ解析リーダー
桜庭 夢 35歳 AIロボティクスリーダー
「なぜ、二度の停電が必要だったのですか」
呆れたように、築島は尋ねた。
「十五時十分に起こした停電の後にサーバー室に入らなかった方がいました。星野先生と桜庭さんは、マシンのチェックのため研究室に残っていたのです」
「私か桜庭君がスパイだった場合、サーバー室に行かなかったので、尻尾がつかめないというわけですか」
星野は笑った。
「過去の時間世界に出発する前は、スパイは誰かわかりませんからね。可能性は否定できません」
神楽も笑っている。
「十五時三十二分に起こした二度目の停電は、おふたりがサーバー室に行きたがるかを確かめるためでした。結局、椅子から立ち上がることさえしなかったので、晴れて過去の時間世界に出発できたというわけです」
「スパイではないと、容疑が晴れたわけですね」
桜庭は、そう理解する。
「いや、サーバー室に行かずともプログラムを入手できると思ったのですよ」
神楽は、相当に人が悪い。
「なぜ、二度も同じ時間帯の世界に戻ったのですか」
藤江の質問に神楽は答える。
「時間が、なかったからだね」
神楽は、言葉遊びをしているようだ。
藤江も付き合う。
「神楽さんは、好きな過去の時間世界に戻れるのですから、時間が足らないことはあり得ないのではないですか」
「好きな時間といっても、未来の時間世界の僕が『スパイはいない』と伝えに来るかもしれない朝八時前にするわけには、いかないじゃないか」
「なぜですか」
藤江には、わからない。
「『スパイはいない』ことを確認する前に、未来時間の僕を出迎えるということは、『スパイはいない』と伝えず、スパイがいることを前提とした行動をスケジュールしておかなければ、マシンを動かして迎えることはできないからね。昨日のうちに、そこまでは考えていなかったよ」
複雑だが、理解はできる。迎え入れる要員が必要なのだ。
「朝の八時過ぎにすれば、よいのではないですか」
「そうも思ったけれど、今日集まるスパイ含めたみなさんの行動がわからないじゃない。午前中にスパイが潜入していて、警備室でばったり遭うのも嫌だからね。全員が揃い、他の部屋には誰もいないことが確実な時間じゃないとね」
リーダーたちも真剣に聞いている。
「プログラムは、スパイに抜かれることが前提だったから、書き換えのための時間が必要なのさ」
柏崎にも聞かせたかった。
「一度目の停電の後、私とスパイだった柏崎先生とで警備室に入りましたが、誰もいませんでした。築島先生と雨宮先生と船越川さんは、サーバー室に行っていますし、星野先生と桜庭先生は、制御室を通り研究室に入っています。誰も二番目と三番目の神楽さんの姿は、見かけませんでした」
「思い出してみて。一度目の停電の後、全員が制御室に集まったじゃない。そのときに、二番目の僕は警備室から会議室に移ったんだ。三番目の僕は停電の前にサーバー室からトイレに移ったんだけれど、給湯コーナーから藤江くんに見られていると思うんだよね」
停電の直前を、思い出してみる。
藤江は、神楽に誘われて給湯コーナーでコーヒーを淹れた。誘った神楽は、水だけ飲んで出ていった。廊下で雨宮とぶつかりそうになり、そのまま、ふたりは制御室に入っていった。コーヒーを取り出し顔を上げたとき、トイレに行く神楽を見たのだ。
「トイレに向かう神楽さんは、三番目の神楽さんだったのですね」
「そう。停電してから移動しようとすると、サーバー室からトイレまでは距離があって間に合わないからね」
廊下の端から端までは、五十メートルはあるだろう。たしかに、歩いていては間に合わないかもしれない。
「藤江くんは、警備室に行ったときに監視モニターを確認したでしょ」
「それは、真っ先にしました」
また、神楽は藤江に尋ねる。
「僕は、どこにいたかな」
「たしか、会議室を確認している姿がモニターに映っていたはずです。そうか、それは二番目の神楽さんだったのですね」
「そう、一番目の僕は、給湯コーナーに身を潜めていたのさ。もうひとつ、先ほど、二度の停電は星野先生と桜庭さんを試すためと言ったけれど、システムの再起動に、どうあれ二度の停電は必要だったんだ」
完璧なスケジュールでしょと、神楽はコーヒーを飲み干した。




