第26話 戻ってくる神楽
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
常磐道 勝清 42歳 日本宗教調世会調世部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
柏崎 順太郎 42歳 量子物理学リーダー
星野 龍生 40歳 高エネルギー物理学リーダー
築島 光男 39歳 ナノテクノロジーリーダー
雨宮 静香 38歳 時間理論データ解析リーダー
桜庭 夢 35歳 AIロボティクスリーダー
柏崎はスパイとして確保されたが、神楽は十九時十四分まで戻ってこない。
帰ることもできず、神楽の帰りを待つしかないリーダーたちと常磐道は、再び会議室に集まった。
常磐道は、神楽の席に座る。
柏崎の席は、空いたままだ。
「神楽部長は、過去に戻って柏崎先生がスパイであると証拠を掴んだのでしょうが、なぜ停電させたりと回りくどい方法を取ったのでしょう。現行犯で捕えればよい話ではないですか。部長自身が追い詰めなくても、すぐに公安を呼べばよいでしょうし」
星野は、太い腕を組んで考えている。
常磐道には、十五時二十五分に連絡が入ったそうだ。
「神楽部長は、サーバー室に量子通信機が接続されていると連絡してきました。流出させたプログラムは受信すると位置を折り返すため、協力者の確保に動いてもらいたいとも。証拠は、監視室モニター裏面に隠し置いたSSDに映像を切り替え保存してあると、早口で伝えてきました」
神楽はサーバー室の内線で連絡してきており、プログラムを復旧している最中だと話をしたそうだ。
藤江の記憶では、その時間は、一度目の停電があり各部屋を点検した後、全員が会議室に戻るために給湯室やトイレ、廊下を行き来していた頃である。神楽は、ずっと廊下にいたはずだ。藤江は廊下から動いていないので間違いはない。
常磐道に連絡した神楽は、未来の時間世界から来た神楽だったのだろう。
過去の時間世界に向かった今の神楽は、過去の時間世界で同じことを行っているはずだ。
「なぜ、すぐに戻らずに十九時十四分なのでしょうね」
雨宮は、自身の時間旅行のモデルに照らし合わせて理由を探っているようだ。
「神楽さんが同じ時間世界に戻るのであれば、出発した十五時四十六分から十九時十四分までの三時間二十八分を過去の時間世界で過ごしたのだと思います」
時間の構造が、藤江にもわかってきた。
「出発する前、神楽部長は制御室に入るなりパネルを操作していました。その直後、マシンが光ったのです。時刻は十五時三十九分でしたね」
船越川が、思い出した。
「十五時三十九分に神楽部長が戻るために出発したのでしたら、その三時間二十八分前の十二時十一分の時間世界に行ったということになりますね」
雨宮は、ようやく納得したようだ。
「それは、ありません」
藤江は、きっぱりと否定した。
「その時間には、この会議室で部長と船越川さんと私とで『スパイはいるのか』話をしていました。タイムマシンは、行先での受入操作が必要なので、誰か協力者が必要です。しかも、その協力者は、事前に十二時十一分に神楽さんがやってくることを知っていなければなりません」
「そうですね」
残念そうに、雨宮はつぶやいた。
時間旅行に旅立ってから、この後の帰還まで神楽の足取りを、誰ひとりとして納得できるように説明できる者はいなかった。
時計の針は、十九時ちょうどを指している。
「少し早めですが、神楽部長を迎えに制御室に行きましょう」
常磐道が、席を立った。
そうですねと、リーダーたちも立ち上がる。
「迎えの操作をしないと、神楽部長はどうなってしまうのでしょう」
雨宮が、いたずら気に尋ねる。
「冥界を永遠に彷徨うそうですよ」
当たり前のことのように常磐道が答えた。
全員が制御室に移動する。
「では、受け入れ準備を始めます」
船越川は、てきぱきとコンソール・パネル上のスイッチを操作し、キーボードでデータを入力している。神楽が生還を託しただけあって、船越川の操作に迷いはない。
「準備できました」
タイムマシンのドアが、自動で閉まっていく。
十九時十三分になった。
研究室内のマシンが、微かに振動し始める。
コンソールパネル上の赤いランプが緑色に変わった。
「十九時十四分、シンクロしました」
船越川の言葉とともに、マシンのドアが開いた。マシン内は発光しているようだ。白い光が洩れる。
光を背に、神楽が現れた。
ゴーグルを外した神楽は、制御室から見守るリーダーたちに軽く手を振る。
制御室へのドアを開け、神楽が入ってきた。
「みなさん、お待たせしました。問題は解決してるかな」
出発よりも、帰還の方が衝撃的だった。
全員が、返事もせず呆然としていた。




