第25話 スパイの身柄を確保する
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
常磐道 勝清 42歳 日本宗教調世会調世部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
柏崎 順太郎 42歳 量子物理学リーダー
星野 龍生 40歳 高エネルギー物理学リーダー
築島 光男 39歳 ナノテクノロジーリーダー
雨宮 静香 38歳 時間理論データ解析リーダー
桜庭 夢 35歳 AIロボティクスリーダー
「これは、神楽部長が主導して開発した異世界間量子通信機です。冥界の地獄とも通信できるので神楽部長は『ヘルフォン』と名付けていますが、私は『量子通信機』と呼んでいます。面白味には欠けますね」
通信機は「量子もつれ」を観測して、データを通信していると、藤江は聞いたことがある。
「このフロアからの通信線、電力線、ガス・水道の配管、ダクトなど外部と接続しているすべての設備は、常に監視されています。音波、電波、電磁波、振動波の何ひとつとして外部に伝わることはありません。しかし、宇宙の果てと果てとでもシンクロするこの量子通信機だけは、遮ることができません」
「神楽部長は、USBの基盤は、探知できないと言っていました」
藤江は、今朝、神楽から聞いたばかりの話を常磐道に伝えた。
「それは、神楽部長から注意されていたので、随分と前に精度を高め探知できるようにしてあります」
しつこく言ってくるので困ったものですと、常磐道は笑った。
「探知できることを神楽部長にも内緒にしておいて様子を見ていたのですが、スパイもさるもの、何も異常なく今日を迎えています。物理媒体を持ち出すことは、不可能なのです」
量子通信機を手に、常磐道は話を続ける。
「しかし、物の持ち込みについては、セキュリティが甘かったようです。この量子通信機は初期の型なので、かなり前に持ち込まれていたようです。ご自分のロッカーにでも入れておいたのでしょう」
さあ行きましょうかと常磐道に促されても、柏崎は当然渋る。
「柏崎先生、外部のお仲間が助け出してくれると期待されても無駄ですよ。送信されたプログラムは、受信先を炙り出すために書き換えられています。受信したお仲間も既に身柄を拘束されています」
「目の前で神楽くんがマシンに乗り込み、未来時間に向かったのだから、プログラムは正常に動いているのではないかね」
「プログラムは神楽部長が、その都度、書き換えたのですよ。それに、彼が向かったのは、未来時間にではなく、過去時間にです」
柏崎は、下根田の手を振り払おうとするが、つかまれた腕をピクリとも動かすことはできなかった。
一度きりの抵抗で諦めたようだ。両脇を公安警察に挟まれ、柏崎は部屋を出ていった。
あっけない幕切れだった。
「ノーベル賞ものの功績を研究のために捧げた柏崎先生が、スパイだったなんて信じられません」
雨宮の疑問に、築島も反応する。
「非課税の賞金一億五千七百万円を棒に振ったのですからね」
名誉と賞金を捨てた柏崎の動機がわからず、残されたリーダーたちはざわついた。
「その百倍の金額であれば、話は別でしょう。非課税なのは同じですし」
その場に残っていた常磐道が言った。
十一兆スウェーデン・クローナ、つまり、百五十七億円。想像もできない金額に、動機としては十分なのだろうと納得する。
二度の停電、監視記録装置への配線の破壊と差し替え、プログラムの書き換えは、神楽の仕業だった。すべては、柏崎の容疑を炙り出すための作戦だったのだろうか。
「神楽さんは、どのタイミングで……」
「会議室で神楽部長を待ちましょう。私も詳しくは聞かされていないのですよ」
藤江の話をさえぎり、常磐道は言った。
コンソールパネルのデジタル時計は、十六時ちょうどに変わった。




