第24話 スパイの正体が判明する
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
柏崎 順太郎 42歳 量子物理学リーダー
星野 龍生 40歳 高エネルギー物理学リーダー
築島 光男 39歳 ナノテクノロジーリーダー
雨宮 静香 38歳 時間理論データ解析リーダー
桜庭 夢 35歳 AIロボティクスリーダー
「どうします、神楽くんを待ちましょうか」
柏崎は、残されたリーダーたちを見て言う。ここで、解散を申し出る者は、スパイを疑われるであろうと誰もが思っている。
「時間まで、会議室で待つしかないようですね」
星野が促した。
実験の成功よりも神楽の突拍子もない行動に驚いている全員が、会議室に向かってゆっくりと動き出した。
そのとき、研究室のドアが開く。
常磐道を先頭にスーツ姿の男性四人が部屋に入ってくる。横に広がると、リーダーたちと向かい合わせに並んだ。
「神楽部長は、出発しましたか」
常磐道は、研究室を見回して言葉を続けた。
「それでは、スパイをされている方、申し出るのなら今のうちです」
そう言われて、前に出るスパイがいるはずがない。
「では、こちらから伺ってお連れします。下根田さん、お願いします」
常磐道に声をかけられた左側に立つ男は、はいと返事をして一歩前に出た。
二十代後半だろう。髪は短くまとめ、百八十センチメートルの体躯は、スーツを着ていても、鍛えられているとわかるシルエットをしている。他の三人も下根田の後に続いた。
彼らは、別の公安の人、公安警察なのだろう。
下根田は真っ直ぐに進み、柏崎の横に立つ。
「先生、一緒に来ていただきます」
下根田は、柏崎の右肘に手を添えた。
柏崎は、下根田の顔を驚いた風に見る。次いで、常磐道の方を向いた。
「これは、どういうことかね。私がスパイだというのかね」
「残念ながら、そのとおりです」
「今まで貢献してきた私を侮辱する気かね! 同行して、何もなければ……」
「同行ではありません。逮捕です」
公安調査庁にはないが、公安警察には逮捕権がある。
「私は、電源を落としたりしていないぞ」
「もちろんですとも、落としたのは神楽部長です」
常磐道はそう言うが、停電のとき、神楽は藤江と一緒にいた。一度目は廊下で、二度目は会議室で。神楽には、警備室の電源を落とせないはずだ。
全員の疑問には触れずに、常磐道は話を続ける。
「証拠があります」
「どこに、そんな物があるというのだね」
「プログラムを抜き取る姿が、映像として記録されています」
そう言いながら、常磐道はポケットからUSBメモリを取り出す。
「そんな物、捏造に決まっているじゃないか。警備室の記録装置への配線は引きちぎられていたのだからな」
「そう思って、あなたは油断したのですよ」
下根田は、正面を向いたまま言った。
常磐道は、コンソールにUSBを接続し、モニターに画像を映し出した。
監視カメラと思われる画質の映像には、棚が並ぶ部屋が天井から見下ろすように映っている。サーバー機が設置されているところを見ると、このフロアのサーバー室なのだろう。画面の右上には、十五時十六分二十七秒と表示されている。
サーバー機に近寄る柏崎が映る。
画面の中の柏崎は、内ポケットから取り出したスマホ大の機器にケーブルを差し込み、それをサーバー機に接続した。機器は、サーバー機の上の隙間へと押し込まれる。作業を終えた柏崎は、画面の左手下に消えていった。
「これは、いつの映像なんだね。サーバー室にはよく出入りしているので、これが証拠と言われても……」
「今日の映像ですよ。先ほど、柏崎先生も『警備室の記録装置への配線は引きちぎられていたので映像は残っていないはず』と言ったではないですか。私には『プログラムを抜き取った映像は、残っているはずがない』と聞こえましたよ。抜き取りは、マシンが完成した今日のことです」
常磐道は、USBを抜きながら言う。
「そう、配線は引きちぎられているはずだ。今日の映像だというのなら、それは捏造でしか、ありえない」
「配線は、神楽部長が引きちぎったのです。ただし、回線は別の記録装置に差し替えていたようです」
「そんな、でたらめを言われても、困るね……」
常磐道は、内ポケットに手を入れた。
取り出した常磐道の手には、柏崎が接続していた機器が黒く鈍く光っていた。




