第18話 そして完成の時間です
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
常磐道 勝清 42歳 日本宗教調世会調世部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
柏崎 順太郎 42歳 量子物理学リーダー
星野 龍生 40歳 高エネルギー物理学リーダー
築島 光男 39歳 ナノテクノロジーリーダー
雨宮 静香 38歳 時間理論データ解析リーダー
桜庭 夢 35歳 AIロボティクスリーダー
「さて、二〇一六年から柏崎先生にプロジェクトに参加していただき、早々に量子物理学面から冥界の存在を証明していただきました」
「常磐道くんに誘われて、私も初めは興味本位の参加でしたが、現世と冥界間でも量子トンネル効果が観測されていることがわかり、身が震える思いでしたね」
遠くを見るような、懐かしむ目をして柏崎は言った。
「このトンネル効果を百パーセントの確率で発生させる柏崎先生の功績は偉大です。間違いなくノーベル賞を受賞できる内容なのですが『そんなものに興味はない』と元来の捻くれた性格のお陰で、通信機ヘルフォンは完成したのです」
同年代ということもあり、神楽はからかい気味に話す。柏崎は、微笑んで聞いているので、関係はできているのだろう。
「次に、冥界との壁を突破できないかと参加していただいたのが、星野先生です」
神楽は、星野をちらりと見た。
星野は、苦笑いしながら発言する。
「そう、二〇一七年に神楽部長から『力技で冥界との壁に穴を開けて欲しい』と誘われたことは、忘れられません。馬鹿にしているのかとさえ思いました。私の見た目から『力技』と言ったのでしょうが、高エネルギー物理学も粒子の衝突というミクロの世界ですからね。今でも『その腕力で』と枕詞を付けるのは、やめていただきたいものです」
神楽は笑って聞いている。
「研究開発を進める中、独自の時間理論を展開し、時間旅行のシミュレーションモデルを面白くわかりやすい動画で公開し、人気を博していたのが、雨宮先生でした」
「熱烈なお誘いでしたよね。五千人のチャンネル登録者を取るか、プロジェクト参加を取るか、かなり迷いました」
「どうして、プロジェクト参加を選んだのですか」
俗世で注目を浴びる生活も悪くないだろう。
「時間理論だけでなく、空間理論や、量子力学、天文学、超能力、オカルト、UFOなど、全てが説明できると言われたのです。研究者にとって『全ての謎の解明』を提示されたら、もう、選ぶしかないですよね」
雨宮の答えに全員が大きく頷いた。そうですよねと相槌を打った船越川も、同じ理由で日本宗教調世会に入ったに違いない。
神楽は話を戻す。
「このプロジェクトを立ち上げる前から常磐道部長は、冥界に自由に行き来できる少女を見守っていました。しかし、どのようにして、なぜ行き来できるのかは、わかりませんでした。戻ったときには記憶をなくしているので、冥界の様子もわかりません。密かに観測装置を忍ばせ、冥界のデータを取得したりもしたのですが、何も記録されていなかった」
「その女性は、ベアトリーチェの生まれ変わりだったので、神に優遇されていたことが、最近わかりました」
船越川が補足した。
五月にダンテと共に冥界に行った女性だ。
「そのような中、二〇一八年に、今は冥界にいる西藤隆史くんが、現世と冥界が古典物理学上でも行き来できる法則を見つけ、常磐道部長が調世会に引き抜いたのです」
「その方は、今は冥界にいるのですか」
あまりにもさらりと話すので、聞き逃すところだった。
「昨年の春、自身の理論を身をもって証明したのですが、肉体は冥界に行けなかったのです。亡くなってはいますが、元気そうだったとのことです」
よくわからないが、ダンテと女性が冥界で逢ったのだろう。
「その後、マシン本体に築島先生の自己修復セラミックを使わせてもらい、冥界内のワームホール通過時の損傷を心配する必要がなくなりました。これで、技術的な問題は解消できたのですが、ここで、技術の進歩が問題になったのです」
なぜ、技術の進歩が問題になるのだろうか。藤江が尋ねる前に、神楽は説明を続ける。
「技術が進歩すれば、マシンの精度は上がるのですが、過去の時間世界に戻る際に問題が起こります。最新のマシンから古いマシンに向かうのですから、下位互換が必要なのです。それでは、革新的な機能が組み込めない」
神楽は、藤江の顔を「そうでしょ」といった目で見る。
「桜庭さんに独自AIを開発していただきました。AIが能動的に互換性を保つので、開発の柔軟性が非常に高まったのです。そして……」
全員の顔に笑みが浮かんだ。
「そして、今日、完成したのです」
時刻は、十四時五十九分になる。




