第13話 どうにか楽をしたい神楽
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
船越川 瑠理香 40歳代前半? 日本宗教調世会調査員
藤江は、パソコンを開き、地下五階のセキュリティシステムを改めて確認する。
映画によくある、人が出入りできるような都合のよい換気ダクトなどのスペースはない。神楽の言うとおり、エレベーター内の探知を突破してデータを持ち出すしかなさそうだ。
五人の各リーダーのプロフィールも見直してみるが、特に怪しい点は見つからなかった。
会議室の時計の針は、十一時三分を指している。
集合時間は、十四時とメールに書かれていた。
「そろそろ、警備室で監視し始めますか」
気を利かせて、神楽に尋ねるが「今日は、スパイが動きやすい環境にするから、ずっとここにいていいよ」と返ってくる。
リスクに見合った成果があるのだろうか、藤江は心配になる。
十一時五十五分、廊下にコツコツとヒールの音が響き渡る。
会議室のドアが開き、船越川が入ってきた。
白のブラウスに黒のタイトスカート、手にビニール袋を提げている。いでたちは颯爽としているが、お弁当の配達だった。
「はい、今日は、おふたりとも日替わり弁当ですね。ここに置きますよ。神楽部長は、居場所を伝えておいてもらわないと、探すのに苦労します。もう、何度目かのお願いになりますから」
船越川は、神楽の右側に回り込み、ビニール袋を置いて差し出した。
神楽はごめんねと口にするが、手はパソコンの操作を続けている。
「今日は、私もこちらでお弁当いただきます。お茶を用意しますね」
「いや、自分で淹れてきます」という藤江の言葉も聞かずに、船越川は会議室を出ていった。
給湯コーナーは、会議室の隣にある。
船越川はお茶を淹れ戻ってきた。
「藤江さんは、今日の目的と段取りを聞きました?」
同じ日替わり弁当を食べながら船越川が尋ねた。
「聞きましたが、私は何もしなくてよいそうです」
神楽をチラリと見る。弁当には手を付けず、パソコンを操作している。
「そっ、藤江くんには、スパイが暴れたときに盾になってもらえればいいんだ」
パソコンから視線を逸らさずに口にする言葉は、どこまで本気なのか、藤江にはわからない。
船越川にもスパイの話しをしているのであれば、少なくても、藤江と船越川は、疑われていないということなのだろう。
「本当にスパイがいるのですかね」
今度は、藤江が船越川に尋ねる。
「朝から神楽部長がうるさいものだから、リーダの身辺調査を午前中に改めて行いました。どなたも著名な方ばかりなので、どこかしらで諸外国との接点がありますね。仮に繋がっていたとしても、直接、連絡は取り合っていないでしょうし、わかりようがないです」
船越川も、やれやれといった表情をしている。
「いると思うよ」
パソコンを閉じ、弁当のふたを開きながら、神楽は言った。
時刻は、十二時十三分になる。
「スパイがいなかったときには、僕はどうすると思う?」
意味が、わからない。
「今、スパイ捕獲作戦を考えている僕が、明日になってスパイがいないことがわかったとしたら、無駄なことしたなと思うじゃん」
神楽なら、そう思うだろうと、同意する。
船越川も頷いている。
「なら、過去の時間世界に戻って『スパイはいなかったよ』と伝えれば、過去の時間世界にいる自分は無駄なことをせずに済むじゃない。だから、戻るとすれば『今朝の八時に戻って伝える』と昨夜のうちに決めたんだ」
神楽の発想に追いつかない。
「それは、神が嫌がる歴史の多重化や、因果のスパイラルになるのではないですか」
神楽の話が矛盾していることは、わかった。




