第12話 タイムマシンが完成しました
藤江 幸頼 27歳 関東公安調査局第一部勤務
神楽 伝次郎 42歳 日本宗教調世会企画部長
二〇二四年九月十七日、朝九時、藤江は地下五階の殺風景な廊下を通り、右側中ほどのドアを開け会議室に入った。
会議室の中央には、片側五人掛けのミーティング机が置かれている。ドアの幅より明らかに大きいテーブルをどうやって入れたのか、藤江は不思議でならない。
神楽がいつものテーブル奥に座っていた。
「藤江くん、おはよう。八時五十八分、いつもながら、時間通りだね」
神楽は、直径八センチメートルほどの大振りの懐中時計を手元に引き寄せると、時間を見て言った。エッジにアンティークな飾りを施した時計は、金色に光り瞬いているが、ヒンジ部にタイプCのUSB接続端子が見える。きっと、神楽の自作なのだろう。
神楽は、時計をパソコンに接続した。
神楽の前には、ノートパソコンの他に筆記用具や懐中時計が乱雑に広げられている。
藤江は、部屋の奥にあるロッカーに暗証番号を入力する。パソコンを取り出すと、代わりにスマホを入れる。
廊下側奥の席、神楽の左前に座った。
藤江は、テーブル中央の配線ボックスにコンセントを繋げながら、神楽にしては珍しいメールの理由を尋ねる。
「集合としか書かれていませんが、何があるのですか」
単なる神楽の悪ふざけではないかと、藤江は睨んでいる。
「タイムマシンが、完成したよ」
あっさりと神楽は言う。
こういった内容は、もっと勿体ぶって発表するのではないか。本当なのか、やはり悪ふざけなのか、藤江にはわからない。
誰も来ていないから話しやすいねと、神楽は続けた。
「データ解析が完了し、向かう先の時間が特定できるようになったんだ。もう動く状態になっているけど、初めての稼働だからね。みんなの前でお披露目することにしたんだよ。それに……」
神楽は、藤江の顔を見る。
「それに、完成したプログラムやデータは、誰もが欲しがるものだろ。今日のテスト稼働がうまくいけば、明日から別の公安の人が大挙押し寄せて、僕だって近づけなるかもしれない。スパイがいるとすれば、手に入れるのは今日しかないんだ」
藤江は、神楽の言葉の意味するところを汲んで質問する。
「私は来ちゃいましたけど、誰も集めなければ、盗まれる心配もないじゃないですか」
「スパイにとって最後のチャンスだよ。僕たちからすれば、突き止める最後のチャンスでもあるのさ。日本が重要な技術を手にすることを阻むために、破壊するなんてことも考えられるから、野放しにしておきたくないんだよね」
「電波は通らないし、通信は監視されているし、スマホのデータは毎日消去されるし、唯一出入りできるエレベーターは金属探知されているし、データは持ち出せませんよ」
藤江には、神楽の取り越し苦労にしか思えなかった。
「USBメモリで持ち出せるよ」
神楽が説明するには、USBメモリの端子を外し、メインチップだけにすれば金属探知では引っ掛からないと言う。
知っていて、放置しているのか。
「持ち出した後には必ず端子類が残されるよね。でも、今までそんなことはなかったから、データは無事なんだろうね」
「トイレに流すとか」
してやったりと神楽を見る。
「トイレ含めて、あらゆる出口で金属探知しているよ。チョコレートの銀紙だとしても、一緒に流すと恐い人が飛んで来るから、藤江くんも気を付けてね」
別の公安の人でもないのが恐いのだろう。
確かに、持ち込みのチェックは緩く、チェコレートをポケットに忍ばせても没収されることはない。
「しかし、今日は完成品だから、持ち出した後に部品が見つかろうと、明日からここに来る必要はないからね。最後のチャンスなのさ」
「どうやって、スパイを見つけるのですか」
藤江の専門分野ではあるが、とっさに良いアイディアは浮かばなかった。
「一応、考えてはあるけど、藤江くんがスパイかもしれないしなあ。そこまでは教えられないかなあ」
両腕を頭の後ろで組み、天井を見上げながら神楽は言った。




