0章 伝説のアイドル引退、そして家に来る
「私のとびっきりの愛を伝えたいのは、黒田翔也さんです!!」
大人気アイドル、七瀬こはるが引退した2027年、9月16日。
彼女がアイドル生活最後に残したその言葉は、世間を震撼させた。
俺の名前は黒田翔也。偶然にも、大人気アイドル七瀬こはるが言い放った人物と同姓同名だ。
最も、あんな可愛い子とは会ったことも話したこともない。
あんな可愛い子に好かれる男がいるなんて、世の中不条理なもんだな。
そんな言葉を呟きながら、ベランダに出る。
タバコを吹かす。
今年20歳になったばかりだ。当然むせる。
我ながらかっこ悪い。
コンビニでも行くか。
明日の大学は3限から。すなわち午後からだ。
大学生の特権といったところだろう。
タバコの火を消し、灰皿にそのまま吸い殻を捨てる。
部屋をただ経由し、玄関に行く。
大学生の一人暮らし、とても狭い部屋だ。すぐ玄関に着く。
ボロボロになったスニーカーを履こうとしたその瞬間。
ピンポーン
部屋のチャイムが鳴る。心臓が飛び跳ねる。
なんだ!?もう25時だぞ。
気がつけば、アイドル七瀬こはるの騒動から12時間も経過していた。
大学生の時間感覚は壊れている。
こんな時間にチャイムを鳴らしてくる相手は、正直怖い。
恐る恐る、ドアスコープから外を覗く。
正直驚いた。
そこにいたのは、非常に華奢で可愛らしい外見をした可憐な女の子だったからだ。
髪は長く、青みがかった黒色。ドアスコープ越しでも輝く青色の瞳が印象的で、間違いなく人生で出会った中で一番可愛い女の子がそこにはいた。
そう、紛れもなく伝説のアイドル、七瀬こはるだった。
「翔也ー!会いにきちゃった」
俺はお前を知らない。
いや、テレビでは知っているが知らない。
「えっと、、、どちら様ですか?」
恐る恐る聞き返すと、返事が返ってくる。
いや、誰かは分かってるけど。
「私!幼馴染の佐藤こはるだよ!」
俺は待ってましたとばかりに返事をする。
「大人気アイドル、Celestial Voxセンターの七瀬こは...佐藤こはる!?」
想像していた答えと違う。
佐藤こはると言えば、去年病気で他界した俺の幼馴染の名前だ。
驚愕に驚愕を重ねられた。
「だから!ずっと隣に住んでた佐藤こはるだよ!幼馴染の事忘れちゃった?」
忘れるわけがない。こはるとの思い出も。最後の日も。
だからこそ、なんで...?
「翔也の事好きすぎて化けて出てきたぞー!がおー!なんてね」
ドアスコープ越しの彼女が戯けてライオンの真似をする。そこは幽霊じゃないんかい。
いや、てかどうなってんだ!?
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