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橋の彼方  作者: 千里空
神の子供たちはみな踊る
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晶②

雨が本降りしてきた。一刻前はまだ晴れたというのに、雨雲が勢いよく押し寄せて、間もなく空は暗くなった。そして束の間に土砂降りになった。

僕は一人で縁側に立ち、陰鬱な空を見上げて、ぼうっとしていた。

ヒカリは皮肉な言葉を残して部屋へ帰った。あの子希望なんか持たない。いつも一歩引いた場所にいた。多分期待が裏切られることを恐れているだろう。

僕らはコインの裏と表ようなものだ。この先のことを考えるとどうしても暗くなるけど、僕は彼の分まで希望を持たねばならない。そして何か方法を探そう。

この家に未恋とか名残とかはないけど、大事な人が取り残され、この先のうのうと生きていけるわけがない。例え今が無理でも、いつか絶対に家族を取り戻す。その前は手紙とか電話とかで繋がりを保つように努力する。それが今の僕が考えうる精一杯のことだった。

ただ残された美雪と一樹のことが心配だった。

美雪は精神的に強い子じゃないし、あの家に一人残され、ほとんど味方のいない環境で心がいつまで持つのか、想像したくない。一樹は気丈に振る舞うだろうけど、唯一優しくしてくれる人間がいなくなったら、きっと色んなストレスを溜まっていくしかないだろう。それが心配で気が気でない。

昨夜のことを思い出す。

お母さんが悲しげに引越しの事実を告げた後、皆しゅんとなってしまった。美雪だけが取り残されると聞いて、彼女は泣いて駄々をこねていた。きっと不安をいっぱい抱えているんだろう。

「ごめんね、こんな悲しい思いをさせて」

お母さんは美雪を抱きしめながら宥めていた。

「お母さん、頑張るから。きっとあなたを迎えにくるから、それまでは我慢してね」

お母さんが嘘を言うわけがない。ただその約束がいつ果たされるか、誰も知らなかった。

その夜は引越しのことを考えて、どうしても眠れなかった。現実を受け入れる心の準備くらいしかすることないのに、やはり色々考えてしまう。横になっても考え事で意識がはっきりしていて、眠るに眠れなかった。いっそのこと起きて気晴らしでもしょうと思った。

廊下に出て、庭の方へ向かった。月明かりを頼りに庭の方へ行き、そこに先客があった。縁側で寄り添うように座っていた一樹と美雪の背中姿が廊下の角から見えた。しばらく二人は無言だった。きっと言葉がなくても、心は通じ合っているんだろう。こうして見ると本当の兄妹に見える。

床を軋ませるようにあえて強く床を踏み、二人に僕の存在を気つかせた。

「よぉっ」

軽く挨拶をし、二人の驚きの視線に浴びながら、一樹の隣まで歩いて座った。

「あんた達も眠れないか」

「皆同じね」

やや低い声で返事してくれた一樹。

「僕はさぁ、こういうことで僕らの関係に何かが変わるとは思わないんだよ。だからこれからも連絡し合おう。きっと再会できる日がくるから、そうしたら前と同じように一緒にいよう」

「それはそうだね」

一樹は元気なく笑って見せた。隣の美雪は始終無言だった。ここから出る予定の僕の言葉じゃ彼女を慰めることはないだろう。

「落ち着いたら手紙書くよ。携帯持つようになったら電話で連絡する」

「手紙の出し方知ってるの?」

「これから覚えていくといいさ。一樹も覚えておくといい。最初の手紙は僕から出すから、その後は君からだよ」

「そうだね。そうするよ」

「それでさ…」

その後は漫然と雑談していた。残された時間が僅かだと知り、このような他愛ない時間すら貴重に思えた。

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