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橋の彼方  作者: 千里空
橋の彼方
69/74

物語の終わり

K

カイトを見送ってから遠足の気分はどこかへ消えてしまった。しんみりした空気が二人の間に漂って、しばらく思い思いに無言で歩いていた。元の住所に戻って、客室にあるあの絵を取り外して、花畑の方へ持って帰った。

それからユキと二人で以前のように過ごしてきた。外のことはまるで忘れたかのように、帰ってから誰も口にしなかった。彼女は花を植え、一番綺麗に咲くところを絵画にする。俺はその彼女を見て呑気に過ごしながら小説を書き続けた。

ありきたりな日常は、多分最後の時が訪れるまで続いていくだろう。目を開ける度、自分がどんな奇跡の中で生きているか、そのことについて深く感謝している。

懐中時計をしきりに確認することはもうやめた。カウントダウンをしてしまえば平静でいられなくなるかもしれない。ユキと過ごす日々を大事にしたいから、最後まで平静な心でいたい。

それでも、意志とは関係なく、時間経過につれて俺らは若返りしてゆく。大人の姿から少年少女へ、やがて思考、言語や行動をぎりぎり維持できる幼い子供の姿になっていく。それが限界だった。

そしてずっと書いてきた小説もとうとう結末を迎えた。

完成した物語をユキに読んでもらった。書いている途中から読んできたが、彼女はもう一度頭から読み直してくれた。

「感想は?」

「なんというか……悲しい物語だったね。どっちかと言うと、私はハッピーエンドの方が好きかな」

「そうだね。残念だったね」

他人事みたいに相槌した。

「物語の結末って作者のあなた次第じゃないか?書き替える気はないの?」

「それはだめだよ。物語がそこにあって、俺はそれを言語化にするだけだ。勝手に結末を改竄してはいけない」

「真面目だね。せめてヒロインを変えてみない?私、何故かこのヒロインがどうしても好きになれない」

「そりゃあ残念。俺は好きだよ。むしろ愛している」

それを聞いてユキは片眉を上げた。

「何?そのヒロインにヤキモチでも焼いた?」

「もちろん違うわ。ただこんな女がタイプだなんて、意外に思って」

その言葉はブーメランになっていること、彼女は気付かないだろう。

「好きになるのに理由は要らないさ。それこそ(あらかじ)め遺伝子が決めたことで、一目惚れした俺達に言えたことじゃないよ」

それでも彼女は納得できず、首を傾げて考え出した。

「変なの。この物語は初めて読んだ気がしないのは何故かしら?」

「気のせいじゃない?」

ちょうどその時、心の時計の針はカチッと数字盤の12にぴったり指した。

ユキの指先から原稿用紙がすり抜けて床に落ちた。彼女も感じたらしい。

お互い懐中時計を取り出して、確認した。針は寸分違わず12に指していた。

床に散らかって原稿用紙を片付けて、机の上に置いた。名残惜しそうにそれを眺めていたユキにそっと手を差し伸べた。

「時間だ。行こう」

自分の声かどうか疑いたくなるくらい、平坦な声だった。

ユキは頷いて、俺の手を取った。さっきまでの元気がなくなり、どこか落ち込んだ顔をしている。

どんな気持ちだろうと、終わりは目前にあった。

俺らは手を繋いだまま、あの白い霧の向こう側を目指して歩き出した。

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