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橋の彼方  作者: 千里空
君の知らないところで世界は動く
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運命の果実を一緒に食べよう

一樹

彼女の話を聞いて、驚かないのが無理だった。しかしよく考えたら、今まで疑惑に思った全てはこれで辻褄が合った。

複雑な気持ちを抱えたまま僕は彼女を抱き締めた。

自分が狂っていると彼女は言った。僕の方はどうだろう。彼女の全てを知り、それでも愛おしいと思っている僕も、狂っていないと言えるだろうか?

実の兄妹とは流石に僕の想像を超えた。彼女が腹違いの妹じゃないかと疑って迷ったこともあった。しかしその迷いも、彼女に僕の思いを伝える時点でどこかに吹っ飛ばしたはずだ。ならば今更母親が同じ人になっただけ何を迷う必要があるだろうか。

むしろより深く繋がっていることに、歓喜を覚えた。彼女の罪も心の闇も、愛ゆえからの物だと考えると、それを忌み嫌う理由はどこにあるだろうか?その狂おしいほどの愛こそが、僕がずっと求めていた物ではないか?

だから僕は彼女に言ったーー

「僕達は双子だから、君の罪は僕の罪でもあるんだ。だから、罪も罰も分け合いましょう」

邪魔立てする人間はもうどこにも居ない。もう自分の気持ちを抑える必要がない。

それからお互いの愛を確かめるように、僕らは激しく求め合っていた。精神も肉体も深く繋がって、僕らは本当の意味で一つになった。


それから波瀾万丈の一ヶ月を過ぎた。父の一件で警察の事情聴取を受けたり、押しかけてくる記者の大軍を凌いたりして、その他にも色々雑事があって、とにかく疲れた。フミハル社に渡す証拠はあくまで静流さん、もといお母さん達の事故の前までの物だったから、調査の方向はそちらに傾いていた。守秘義務があったから、美雪が証拠提供者であることはばれなかった。公的には何も知らないふりを貫き通してきたから、多少疑いの目を向けられても、ずっと大人しくしていたから、そのうちに僕らへの関心が薄くなった。

屋敷の火事の件はあまり言及されていなかった。父の意向があって当初は真面(まとも)に調査もせず事故にでっち上げたから、今更調べようにも大した情報は得られないだろう。それさえやり過ごせば僕と美雪の日常は戻ってくる。

あの一件以来、学校では常に変な視線に向けられた。蔑んだり、同情したり、好奇したりした目線を受けてきた。僕らは腫れ物のような存在になった。それを機に僕は生徒会長を辞退した。元々父に言われてやっていたから、何ら未練もなかった。松本の方はそれ以来連絡が断った。松本亜由美との婚約は元から世間に公表してなかったから、自然消滅してこちらにとっても好都合であった。

波風を立てないように、外での過度なスキンシップは自粛していた。その反動のせいか、家では狂おしいほど互いに求め合っていた。

一件落着して、これからのことを考え始めた。父という大黒柱を失った今、今後は自力で生きていくしかない。母方の親戚は後見人になってくれたが、会ったのが数回だけだった。向こうにとってこちらは疫病神みたいな存在だったから、極力関わらないように、名ばかりの後見人で通した。幸い、父が手配してくれたマンションの所有者は僕だったから、清算されずに済んだ。その点だけ彼に感謝しなければならなかった。

今後のことを考えて、今までのような贅沢はしていられなくて、その高級マンションを売り払い、東京を離れ、生まれ育った故郷に戻った。井野家の屋敷は廃墟になったままだから、駅周辺のアパートの一室を借りてそこに移住した。マンションを売り払って手に入ったお金のおかげで当分の生活は困らないが、僕も美雪も大学へ進学するつもりだから無駄遣いはしたくなかった。ここからの生活は細かく計画を立て、節約できる物は節約して、家計管理が必要だった。そのうちアルバイトも見付けた。今までに比べてやや窮屈な生活ではあるが、前の生活より充実感があった。

父が消えたことで、暗闇しかないと思っていた未来は今や無限の可能性を感じた。美雪との日常を守りながら、ゆっくり考えていくといい。

ほとぼりが冷めて、世間からの風当たりも弱くなった。狂気や罪を心の奥底に仕舞い込んで、僕らは普通に暮らしていた。それから美雪と普通に付き合った。ようやく手に入れたありふれた日常に、僕は幸せを味わった。いつ失われるかもしれない不安な気持ちは当然あった。それを考えてもどうしようもないから、僕は精一杯幸せを噛み締めて、今を生きることにした。

第四章完

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