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橋の彼方  作者: 千里空
君の知らないところで世界は動く
57/74

帰還

K

最後のページを読み終わって、そっと本を閉じた。感慨深い気持ちになり、思わず溜息をした。

もしこの世界を作り出す神様とかが存在すれば、多分その神は結構心優しい方だろう。ここへ来る人達にやり直す機会を与えて、好きな生き方を選ぶチャンスを与えた。彼は人々の幸せを望んでこの世界を用意したんだろう。

人は生まれてから罪を背負っていたと聞く。ならば生きることはある意味罰である。それが真実であれば、救いはどこにあるだろうか。この世界こそが、そのクイズに対する創造主の答えその物であろう。

必死に「橋の彼方」を探していた自分が阿呆らしいと思った。こんな奇跡みたいな世界を捨てて、あの冷酷で荒んだ世界に戻ろうとしていたから。自分で自分を嗤った。しかし、自分がそのような行動を取ったのも、何かの意志の元でそう仕向けらたんだろう。

「あなたが求めていた真実は見付かりましたか?」

いつの間にか、仮面コンビは俺の後ろに居た。

「うん」

「ここは人々の真実が預かる場所ですから、本来その人がここを去る時しか立ち入れません。それを特別に許されることの意味、今のあなたではもうお分かりでしょう」

「そうだね」

「ならば今度はこちらからの質問です。この世界に、満足していますか」

「ええ、とても」

「幸せを手に入れましたか?」

「幸せか……それはこれからかもしれないな」

「分かりました。この場所から出て頂きましょう」

俺は頷いて、本を本棚に戻した。それから立ち上がって、二人に礼を言った。

「ありがとう」

「我々は為すべきことを為しただけです」

気のせいか、二人は一瞬笑ったように見えた。仮面を付けて表情が分からないのに、理由もなくそう思えた。


再び地下通路を通った時、来る時に感じた薄気味悪さはなく、心はとても落ち着いていた。未知な物を怖がるのが人の性、この道の先の風景を知っていれば、もう怖くなんて感じることもない。

狭くて黒い出入り口をくぐって、白い霧に包まれた世界に戻った。改めて見れば、この霧は俺らを閉じ込める鳥籠のような考えはなくなった。むしろそれは俺らを守る結界のような物だった。そう思うと感謝する気さえした。

入り口の近くでユキの姿を見かけた。彼女は陰鬱な顔で地面と睨み合っていたが、俺の姿を見た途端ぱっと明るい顔になった。彼女は小走りで目の前にやってきて、あどけない笑顔で「おかえり」を言ってくれた。

「ただいま」

その笑顔を見て、懐かしい気もするし、愛おしい気持ちもあった。今までぼやけていた心象風景は今やはっきりした物となり、その中心に彼女はいた。

この気持ちはもう一人の“僕”から受け継いたものなのか、この際はどうでもいいことだ。多分全てを思い出すまでに、俺は不完全であった。だから必死に欠けた何かを探していた。

この世界に、俺だけ忘れることは許されていなかった。

「花畑はどうした?」

心の中に色々感情が交差しているが、それを彼女に悟らないように平静を装った。

「百合はもう何回か咲いたよ。綺麗な百合を見せる約束だから、私は何回も植え直した。誰かさんがいつまでたっても戻ってこないせいでね」

彼女はわざとらしく小言を言った。

「そんなに長く向こうに居たのか?」

少し驚いた。体感的にそれ程長く感じなかったが、もしかすると本に浸かっている間の時間感覚が狂っていたかもしれない。

「当たり前よ。もう戻ってこないかと思った。何回も植え直して、花畑の世話以外ここで待っていた。何度も何度も往復した自分はばかみたいと思ったわ」

「待たせて済まんな」

「女の子を待たせるなんて最低だわ」

彼女は怒ったふりをして、いつもよりやや強い口調で言った。

「お詫びにひとつなんでも言うことを聞こう」

「いい。あなたが戻ってくれればそれで十分。さあ、約束通り、自慢の花畑をお見せしよう」

彼女はいつも通りの笑顔を見せた。それから俺の手を引張って、霧の向こうへ歩きだした。

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